テレビドラマの題材としてしばしば登場するものに法医学があります。法医学は犯罪捜査や裁判などの法律の適応範囲で必要とされる医学的事項を研究または応用する社会医学の一つとされています。

ドラマでの印象と裏腹に法医学は非常に地味な分野であり、医師の職域としてはあまり脚光を浴びるものでもありません。事実、大学で法医学者を目指す医学生は非常に少ないと聞いています。しかし、医学教育の中では非常に重要で社会的な要請も強い学問分野であり、現在、日本にある医学部医学科を要する 82 大学のすべてに法医学教室が設置されています。

では、動物ではどうでしょうか? これまであまり関心をもたれないかった分野ですが、1973 年に制定された「動物の愛護及び管理に関する法律(動愛法)」により、罰則の適応された愛護動物虐待罪が明記され、状況が一変しています。

つまり、人を対象とする法医学に対して、動物を対象とする法獣医学(Veterinary forensics)の重要性が叫ばれているのです。しかし、ほんの一部の大学を除いて大学教育の中でもまったく取り扱われておらず、学問体系も確立途上にあり、その活動も限定的です。

そこで、今回は獣医学の新たな分野として、今後、重要性が高まると考える法獣医学について紹介したいと思います。

国内での法獣医学の現状

法獣医学とは、法律の目的に適応される獣医学的知見を使用することから始まりましたが、法律の関与にかかわらず、動物にかかわる不審な事態について、獣医学的技術を用いて解明する学問とされています1)。動物福祉の向上と人および地域社会の安全への寄与を目的とし、社会獣医学の一端を担う日本では非常に新しい獣医学の分野で、専門書も存在していないのが現状です。