教育現場での課題

以上のように、日本におけるAWの枠組みは整備されているものの、実践活動となると各先進国に比べて遅れていることを実感します。動物のAW管理業務は国際的にも獣医師に委ねられているのに対して、獣医学教育の中での対応は希薄であったと言わざるを得ません。

私は 2004 年から酪農学園大学で獣医公衆衛生学の教育に携わっていたのですが、その中の動物との共生という章ではAWと 5 つの自由について簡単に触れる程度だったことを思い出します。極めて薄っぺらな知識で、国家試験対策として最低限覚える項目を話していたに過ぎないことを反省しているところです。2010 年にOIEが獣医師の業務にAWを付加したにもかかわらず、日本の獣医学教育での取り組みは不十分であり、卒業生である現場の獣医師の認識も低いままであったことも頷ける話です。2011 年に国際通用性のある獣医学教育の実践を旗印に獣医学教育モデルコアカリキュラムが制定され、獣医倫理・動物福祉学が導入され、5 つの自由にとって重要な動物行動学も設定されました。ただし、この分野の獣医学教育における歴史は浅く、専門とする教員が圧倒的に少ないことも問題としてあげられます。

世界からみれば遅れているAW関連教育ですが、確実に全国の獣医系大学で取り組んでいるところですので、近い将来、AWの素養を身に付けた獣医師がAW活動を主導してくれること期待しています。


1) 佐藤衆介.:アニマルウェルフェア-獣医師の新たな業務.日本獣医師会誌., 2011; 64(2): 88-92.
2) 農林水産省生産局畜産部畜産振興課長通知.:アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方 2020年3月16日 
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/attach/pdf/animal_welfare-42.pdf
3) WPA:Animal Protection Index 2020年版 https://api.worldanimalprotection.org/
4) 農林水産省.:アニマルウェルフェアについて
 https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/animal_welfare.html
5) 大森正敏.:アニマルウェルフェア-わが国の取り組み-.畜産コンサルタント.,2022; 691: 12-18.
6) 奥野尚志, 鹿島 哲, 山澤伸二ほか.:と畜場の繋留所における家畜の飲用水設備の設置状況.日本獣医師会誌., 2013; 66(12): 875-880.
7) 環境省.:家庭動物等の飼養及び保管に関する基準 2022年環境省告示第54号
nt_r02_21_1.pdf (env.go.jp)
8) 環境省.:犬・猫の引き取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況
環境省_統計資料 「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」 [動物の愛護と適切な管理] (env.go.jp)

これまでの連載は下記リンクから見ることができます
https://media.eduone.jp/list/106/110/


田村 豊 Yutaka Tamura

酪農学園大学名誉教授

1974年 酪農学園大学酪農学部獣医学科卒業
1974年 農林水産省動物医薬品検査所入所
1999年 動物分野の薬剤耐性モニタリング体制(JVARM)の設立
2000年 検査第二部長
2004年 酪農学園大学獣医学部獣医公衆衛生学教室教授
2020年 定年退職(名誉教授)

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