治療の選択肢の幅が、外科医の本質
病態をシンプルにとらえ、疾患のストーリーを描く

―― 大学での経験が、その後の先生の歩み方に大きく影響した部分も大きいのではないでしょうか。

そうですね。特に私は勉強が得意ではないタイプでしたから、なおさら、「千差万別の症例がある中で、どうやったら効率的に診察できるんだろう」ということを自分で考え続けてきました。例えば、「腰部椎間板ヘルニアの術式なら片側椎弓切除術」のような公式的な解を求める方は多いですが、それを覚えても、実際には対処できない症例も出てくるものです。そうではなく、ヘルニアの場所などに応じて、血管や神経の位置を把握し、どうやってその部位にアプローチすることが理想か、筋肉をどう切開するかなど、具体的な手術内容をいかにしっかりイメージできるかが大事。私自身、解剖をしっかり頭に入れつつ、手術が上手な先生方に沢山見学させていただくことで、自分の引き出しを増やせるようにしてきました。結局のところ、その症例にあった治療法をいかに選べるか、どれだけ選択肢を挙げられるかというのが、その外科医の本質だと思っています。


―― 現在の後進の指導でも、そうしたことを重視されているのでしょうか?

はい。外科に関して私が常に感じるのは、「みたことがないものは絶対イメージできないし、イメージできない手術はできない」ということです。ですから、若手にも色々な先生の良い手術をできる限り多くみたほうがいいと話しています。
また、若手獣医師と接していてよく思うのは、大学教育で専門分野が細分化されて一部に特化した子が増えたけれど、他分野とリンクできていない気がします。少し難しく考えすぎているんじゃないかな? と思うことが多いですね。私自身、当院の前院長である諸角元二先生からいつも、「疾患というのは、一つの問題から派生してさまざまな病態が生まれてくることが多いんだよ。疾患のストーリーを、シンプルに考えなさい」と指導していただきました。「複合した問題を一つの疾患としてシンプルに考える」ことが本当に大事だと思います。