正しい除去食試験・負荷試験を行っていますか?

司会:食物アレルギーの診断では、除去食試験ならびに負荷試験が必要になるかと思います。ですが、これを厳密に行うことはとても難しい・・・。先生方の経験やご意見を教えてください。

伊佐:私が獣医師として働き始めたばかりのころの失敗例です。当時私が行っていた除去食試験は、病院にあるフード 3 種の中から一番嗜好性の高いものを選んでもらっていました。新奇タンパクを選ぶという点において正しい除去食試験ではありませんでした。全然食物アレルギーのことがわかっていませんでしたね。除去食試験は、獣医師と飼い主がその意義をしっかりと理解することで、はじめて成り立つ検査だと思っています。

島崎:おっしゃる通りです。「除去食試験は実施済みです」と答える飼い主に話を聞くと、その半数以上が、厳密な除去食試験ができていない印象です。正しい除去食試験ができていないと、正しい判断ができません。

井上:除去食試験の実施には程度にもよりますが 1~2 カ月程度かかるため、飼い主のモチベーションを長期間保つことも重要になりますよね。私の失敗談ですが、飼い主に対して「あれもこれもダメ」と厳しめに指示してしまい、飼い主がそれをプレッシャーに感じて続けられなくなったことがありました。それ以来、まずは除去食試験の大切さを共有し、「一緒に頑張りましょう。うまくいけばお薬がいらなくなるかも!」とこちらの熱意をお伝えしてから試験を実施するように心掛けています。飼い主の頑張りを褒めながら、実施していくことが大切かと思います。


司会:次に負荷試験について質問させてください。負荷試験を実施しない先生が多いのはなぜでしょうか?

井上:負荷試験では症状が悪化する恐れがあり、実施の利点が少ないと感じている先生が多いのかと思います。

島崎:除去食試験だけで原因となる食物が特定できた、食物アレルギーを診断できた、と思い込んでいる可能性があります。負荷試験で痒みの程度が上昇することで、はじめて食物アレルギーと診断できることを認識していただきたいです。

伊佐:飼い主に嫌がられてしまい、実施できない先生もいるかと思います。負荷試験の意義を飼い主が明確に理解できていないと、実施してもらえないですよね。

司会:先生方は負荷試験の意義をどう説明されていますか?

伊佐:簡単にいえば、「食べられる物を増やすために実施しましょう」と伝えています。また、除去食試験で症状が改善した場合でも、「 2 カ月の間に季節が変わると、季節性のCADとの判別がつきません。診断を間違ってしまうと無駄な除去食を続けてしまうことにつながります。負荷試験を行って、正しい診断をつけましょう」とお伝えすると、納得してくれる飼い主は多いです。

井上:私も飼い主への最初のインフォームの時点で、食物アレルギーを診断するまでの過程をお伝えしつつ、「食事の変更で症状が治っただけでは、食物アレルギーと診断できるわけではありません」と説明しています。もちろん、それでも負荷試験を嫌がる飼い主には強制はできませんが、伊佐先生がおっしゃったように、負荷試験によって食べられる物を増やせるかもしれないことをお伝えすると、実践してくれる飼い主は多いです。

島崎:食事の選択肢を増やせることは、飼い主にとっても嬉しいことですからね。

井上:フードに強いこだわりをもち、鹿肉や馬肉といった珍しい食材までを幅広く与えている飼い主には、負荷試験を勧めやすい印象です。あとは、アレルギー検査だけで満足している飼い主もいますが、検査結果は絶対ではないよ!とお伝えしています。アレルギー検査はあくまでも食物アレルギー診断の補助ツールですから、その結果に縛られて食事が制限されるのはもったいなく感じます。

伊佐:アレルギー検査に基づいた療法食への変更だけでなく、除去食試験と負荷試験に基づいた新奇タンパクの食事をみつけるところまでを獣医師がサポートできるのが、ベストな形ではないでしょうか。

島崎:負荷試験の注意点としては、消化器症状がある症例は負荷試験により重篤化し膵炎になるリスクがあるため、慎重に実施する必要があることです。私の場合、パッチテストやアレルギー検査などを行いながら徐々に原因物質のアタリを付けていくようにしています。


司会:先ほど、痒み止めの薬剤の頻用についてお話がありましたが、適切な診断ステップを踏んでいないケースが多いように感じます。

島崎:この徴候(痒み)=この薬剤(痒み止め)というように、診断や治療をパターン化してしまうことは問題ですよね。 薬剤の特性をしっかり理解せず、ファーストチョイスでとりあえず痒み止めを使用すること、CADでは急性期と慢性期で治療が全然違うのに急性期の治療を続けていること、食物アレルギーの可能性を考慮せずにただ痒みを抑える治療を続けてしまうことなど、優秀な薬剤が増えているだけに注意したい点です。

井上:飼い主が再診にいらっしゃらなければ、症状の確認ができません。症状の改善がないため転院されるケースは皮膚科にも多いと思いますが、獣医師側ではそのことに気づかず、類似症例にも同じ治療を続けるということが起きやすいように思います。私は、薬剤が効いたときと効かなかったとき、それぞれにどのような可能性が考えられるかを飼い主に事前共有しています。効かなかった場合の次の一手も飼い主が理解することで、そのようなケースを防ぐこともできるかと思います。

伊佐:薬剤が効かなければ診断が間違っていると考え、一度立ち止まる必要がありますよね。正しい診断がつかないと、飼い主や症例に無駄な負担をかけてしまうことになります。日常的な内服の手間や経済的負担、除去食を取り入れるにしても食事の変更がどれだけ大変かということを、獣医師はしっかり理解しなければいけないと思っています。