今回は「しっかりできていますか?食物アレルギーの診断・治療」をテーマに、皮膚科医の中でも特に食物アレルギーに精通している島崎洋太郎先生、伊佐桃子先生、井上慎也先生の 3 名に、3 つのテーマについてお話しを伺いました。

写真中央:島崎洋太郎先生(東京農工大学動物医療センター/アジア獣医皮膚科専門医協会レジデント)
写真左:伊佐桃子先生(ひだまり動物 皮膚科医院 医院長)
写真右:井上慎也先生(代官山動物病院 院長)
司会:EDUWARD Press

見逃していませんか?食物アレルギー

司会:世界の論文データ では、痒みのある症例の 2 割弱、犬アトピー性皮膚炎(Canine Atopic Dermatitis:CAD)症例の 3 割ほどに食物アレルギーがみられるという報告があります。先生方の感覚では、いかがでしょうか?

伊佐:当院には「痒み止めが効いてない」を主訴に来院する症例が多く、その内の 7 ~ 8 割に食物アレルギーが関係しています。食事の変更だけで症状がしっかり改善するケースは年に 1 ~ 2 症例だけですが、少しの改善が認められた症例も含めると食事に関連して症状が出ている症例は多く、これは食物アレルギーがマスクされているケースかと思います。

島崎:私の印象では、CAD症例のうち、食物アレルギーが関係しているケースは 5 割ぐらいです。ただ、私は大学でも診療していますが、二次診療まで来る食物アレルギー症例は少なく、食事の変更を数回試みてきたケースが多いからだと思います。先ほど伊佐先生から‟マスクされている”という話がありましたが、CAD症例に感染症や食物アレルギーがマスクされているケースは、読者が思っているより多いです。それらのマスクを外すことができれば、初診時より症状の改善が認められます。

井上:私もお二人と同じ印象です。同様のかゆみを主訴に来院され、食事の指導で症状に何らかの改善がみられたケースは症例の 7 割ぐらいかと思います。

司会:そう考えると、先ほどの論文上での割合は少ないですね

島崎:この論文には負荷試験を実施していないデータも混ざっているので、現場での体感と差が生じたのかもしれません。食物アレルギーの部分的な寛解は飼い主が気づかないことが多く、診断では少しの変化に獣医師が気付けるかが重要だと思います。

伊佐:皮膚科でも痒みのスコア(Pruritus Visual Analog Scale;PVAS)や獣医師による重症度評価のスコア(Canine Atopic Dermatitis Extent and Severity Index;CADESI) がありますので、ぜひ活用してほしいです。もし実施が難しいようなら、症状が出やすい部位の様子を初診時に撮影しておき、2 カ月後、飼い主と一緒にその写真を確認するとよいでしょう。小さな変化の見逃しを防ぐことができます。自身で写真撮影を行うことが難しいなら、動物看護師にお願いしてもよいですよね。

井上:記録として写真を残すことは、とても重要です。過去と比較して少しでも症状の改善に気づかせることができれば、飼い主のモチベーションも上がります。

島崎:食物アレルギーの診断では、獣医師側が症状の変化に意識を向けているかどうかが大きなポイントになりますよね。CAD単体であれば、強い痒み症状が認められるケースはごく稀です。 CADのガイドラインでも、悪化要因を特定することが痒みのコントロールに重要だとされていて、感染や食物アレルギーが併発した場合にその程度が上がるとされています。一方で食物アレルギーでは、日々の食事からアレルギー源を摂取してしまうことで、CADと比較して痒みの程度が上がりがちです。CAD症例において減薬ができないときは、食物アレルギーをはじめとしたCAD以外の原因がないかを検討すべきです。


井上:薬剤には効く理由も、効かない理由もあるからこそ、 何を目的として薬剤を投与しているかを振り返り、同じ薬剤の処方を漫然とくり返してはいけないと思っています。そのために重要なのが、細かな問診です。

伊佐:少し話は変わりますが、季節性のCADとして診断された症例が、食物に由来する成分が入った予防薬やスイカによる食物アレルギーだったという経験があります。予防薬のケースでは、毎年同じ季節に内服していました。問診では、予防薬に関する聴取も行うとよいでしょう。

井上:季節性のCADと診断されたが実は違ったというケース、よくありますよね!それこそ、スイカのように食べ物には旬がありますので、特定の時期にしか症状が出ない食物アレルギーの可能性は十分考えられます。季節によって症状にムラがあるという情報はたしかに大切ですが、それだけで季節性のCADと診断するのはよくありません。オクラシチニブのような副作用が少ない使いやすい治療薬が出ているからこそ、減薬できない症例に関してはCAD以外に他の要因がマスクされていないかの検討が、非常に重要です。