日本の河川水の中から、微量ながら抗菌薬が検出されることが報告されています。東京農工大学の研究グループは、特に郊外より都市部の河川で高濃度の抗菌薬が検出されることを示し、都市部ではマクロライド系抗菌薬が、郊外ではサルファ薬が優勢であると述べています1)。このことは、抗菌薬の主な由来として都市部では病院排水が、郊外では農場排水の影響が考えられます。従来、薬剤耐性菌の選択圧として作用するためには、最小発育阻止濃度(MIC)程度の抗菌薬濃度が必要と考えられていたことから、環境中から検出される極めて低い濃度の抗菌薬では選択圧にならないだろうと考えられていました。ところが最近の文献2)では、極めて低い濃度の抗菌薬が薬剤耐性菌の選択圧になることを示しており、環境に放出される抗菌薬は、薬剤耐性菌の選択や維持に影響すると報告されています。このような環境における抗菌薬の由来として、病院ほどは多くないものの動物病院も関与していると考えられます。読者の皆さまの動物病院では、期限切れや余った医薬品の処理をどのようにしているでしょうか?
そこで今回は、このような環境中に存在する抗菌薬について考えたいと思います。

環境中に存在する抗菌薬

環境に存在する抗菌薬としてまず考えられるのは、抗菌性農薬でしょう。農薬とは農業用の薬剤のことで、除草剤や殺虫剤などのほかに抗菌薬も含まれており、環境に直接散布されるため河川に流入します。2013年の抗菌性農薬の国内出荷量は約150トンで、その中には医学や獣医学分野で使用されるストレプトマイシンやオキシテトラサイクロンやオキソリン酸が含まれています。また、畜産に使用される治療用や成長促進用の抗菌薬も糞尿から体外に排出されており、堆肥を経由して農場に曝露されると考えられます。日本獣医師会の調査によれば、動物病院でも年間約30トンの抗菌薬が使用され、主に第一世代セファロスポリン系(セファレキシンなど)、ペニシリン系(アモキシシリンなど)、フルオロキノロン系(エンロフロキサシンなど)でした3)。さらに、最も曝露量として大きいと考えられるのが、医療の中心となる病院からの排水になると思われます。