世界最強の薬剤耐性モニタリング体制を構築し、JVARMの存在意義は年々増している

JVARMが開始されて時間が経つにつれ、家畜に関する各種データが蓄積されてきました。しかし、獣医師の抗菌薬による治療対象である犬や猫などの伴侶動物に関する調査体制は世界的にもごくわずかしか確立されておらず、残念ながらJVARMも対象としていませんでした。伴侶動物での薬剤耐性モニタリング制度が実施されなかった理由としては、まず使用する抗菌薬のほとんどが人体薬を適応外使用していることでした。つまり、使用実態が明確でなく、用法用量も不明であったことです。表1 に諸外国での伴侶動物に対する薬剤耐性モニタリングの実施状況を示しています3)。ご覧のようにスウェーデンとフランスと英国でわずかに実施されているものの、定期的な調査体制には程遠い状況でした。ところが、2016年に公表されたわが国の薬剤耐性対策アクションプラン4)の一環として、2017年度から伴侶(愛玩)動物も調査対象に加えられ、JVARMは世界的に最も進んだ動物の薬剤耐性モニタリング体制となりました1)。伴侶動物由来の薬剤耐性モニタリングの中核は「臨床由来株」とし、供試株は疫学的な観点から、原則として1 株/菌種/動物病院として臨床検査機関を通じて収集しています。供試株数は各菌種について原則100 株とします。大腸菌、コアグラー ゼ陽性スタフィロコッカス属菌、クレブシエラ属菌、腸球菌及びエンテロバクター属菌は毎年のモニタリング対象とし、緑膿菌、プロテウス・ミラビリス及びアシネトバクター属菌については、ローテーションを組んで数年ごとに対象とします。薬剤感受性試験は微量液体希釈法とし、供試薬剤はJVARM で実施している基本薬剤に、伴侶動物の臨床現場で使用されている抗菌薬を追加します。また、検査機関から収集される臨床由来株は、治療が難しい薬剤耐性株が選択されている可能性も考えられることから、薬剤耐性状況のベースラインデータを得るために、数年に1 回程度「健康動物由来株」を対象としたモニタリングについても実施することになりました。採材対象は、家庭で飼育されている健康な犬と猫とし、ワクチン接種等のために動物病院に来院した際に、直腸スワブ等を採取して大腸菌及び可能であれば腸球菌も調査することになりました。なお、健康動物からの検体の収集については、日本獣医師会の全面的な協力をお願いしています。このコラムをお読みいただいている獣医師の皆様にもご協力をお願いしているものと思います。


JVARM開始当初から日本の家畜由来耐性菌の現状を世界に発信しようと、担当者がそれぞれの対象菌種について、英語論文で公表することを責務としてきました。また、複数年度ごとに区切った英文報告書を作成し、動薬検のwebサイトから世界に発信しています1)。2014年にWHOが公表した薬剤耐性のサーベイランス報告書にも代表的な薬剤耐性菌モニタリング制度として取り上げられています。JVARMを開始し継続する意義としてはいくつかあると思います。まず、1999年以前は一部の偏狭的な医学関係者から、医療で問題となる薬剤耐性菌の由来は動物であるということを真しやかに主張されましたが、全てが動物由来ではないだろうと思いつつ、科学的な裏付けデータがないために随分と悔しい思いもしてきました。しかし、JVARMにより科学的なデータが積み重ねられてきた結果、薬剤耐性菌の動向が明らかとなり科学的に反論もできるようになりました。今では薬剤耐性菌の医療や動物での実態が明らかにされてきており、農林水産省の薬剤耐性菌対策も医療サイドから一定の評価を頂けるようになりました。さらに2017年度から開始された伴侶動物由来薬剤耐性菌の調査体制は世界をリードするものであり、名実ともに世界最強の薬剤耐性モニタリング体制を構築することができました。今年で23年を経過しましたが、薬剤耐性菌問題の重要性は益々高まっており、JVARMの存在意義も増しています。これら歴史を基礎としてJVARMがさらに発展することを願って止みません。



1)農林水産省動物医薬品検査所:薬剤耐性菌のモニタリング
  https://www.maff.go.jp/nval/yakuzai/yakuzai_p3.html
2)田村 豊:JVARMの設立背景と意義.動物用抗菌剤研究会報 41:14-21, 2019.
3)木島まゆみ:愛玩(伴侶)動物における薬剤耐性モニタリング.日獣会誌 70:412-416,2017.
4)国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議:薬剤耐性(AMR)アクションプラン(2016-2020).2016年4月5日 yakuzai_honbun.pdf (kantei.go.jp)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokusai_kansen/pdf/yakuzai_honbun.pdf


これまでの連載は下記リンクから見ることができます
https://media.eduone.jp/list/106/110/


田村 豊 Yutaka Tamura

酪農学園大学名誉教授

1974年 酪農学園大学酪農学部獣医学科卒業
1974年 農林水産省動物医薬品検査所入所
1999年 動物分野の薬剤耐性モニタリング体制(JVARM)の設立
2000年 検査第二部長
2004年 酪農学園大学獣医学部獣医公衆衛生学教室教授
2020年 定年退職(名誉教授)

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