ニュース概要

コツメカワウソはカワウソの中で最も小型の種類で、日本では主に水族館や動物園で飼育されています。カワウソは絶滅危惧種に指定されているため日本での飼育頭数は少なく、症例の報告も多くありません。2023 年、海遊館で飼育していた 12 歳のコツメカワウソの左半身に麻痺の症状が現れました。カワウソの急性麻痺に関する症例報告はほとんどなく、報告がある症例はいずれも悪性腫瘍と関連しており予後不良とされています。しかし海遊館のコツメカワウソでは、1 週間ほどの経過観察を経ても症状が悪化することはないものの、麻痺の原因を特定することができないでいました。
大阪公立大学大学院獣医学研究科の田中利幸准教授、長谷川 貴史教授らと海遊館の共同研究グループは、コツメカワウソの CTおよびMRI 検査を行い麻痺の原因を検証しました。その結果、脊椎(背骨)の間でクッションの役割をしている椎間板物質の一部が脊髄血管内に詰まり、血液の流れが妨げられることで麻痺が起こる線維軟骨塞栓症であることが分かりました。ステロイド投与などの内科治療を行ったところ、発症後23 日目には症状が改善し、発症 1 年後のMRI 検査では病変は縮小していました。線維軟骨塞栓症は犬をはじめ、さまざまな動物で報告がありますが、カワウソでは初めての報告となります。本成果は、症状の悪化が見られない急性麻痺の発生時には、カワウソにおける線維軟骨塞栓症を鑑別に加える必要があることを示唆しています。
本研究成果は、2025 年 2 月 7 日に日本獣医学会が刊行する「The Journal of Veterinary MedicalScience」のオンライン速報版に掲載されました。


図 本研究で治療した12歳のコツメカワウソ(左)
線維軟骨塞栓症発症時の病変部(赤丸)と正常部分のMRI画像(比較のために提示)(右)
血管が詰まっている場所は血流が悪くなり、その部分全体がMRI画像では白く写る

掲載誌情報
【発表雑誌】The Journal of Veterinary Medical Science
【論文名】Suspected fibrocartilaginous embolus in Asian small-clawed otter (Aonyx cinereus)
【著者】Toshiyuki TANAKA, Konomi ITO, Yoshimi MIYAGAWA, Motomu MORISHITA, Mizuki TOMIHARI, Takashi HASEGAWA
【掲載URL】https://doi.org/10.1292/jvms.24-0462

研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院獣医学研究科
准教授 田中 利幸(たなか としゆき)
TEL:072-463-5457
E-mail:t-tanaka@omu.ac.jp

教授 長谷川 貴史(はせがわ たかし)
TEL:072-463-5414
E-mail:vetmed-hsst56@omu.ac.jp

報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list@ml.omu.ac.jp

プレスリリース本文
https://www.omu.ac.jp/assets/attachmentfile/attachmentfile-file-65339.pdf


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