ニワトリを用いた研究により、鳥類の羽の小羽枝形成に関与する新規遺伝子「PBCF」を発見しました。
PBCF は、羽板を形成する小羽枝に特異的に発現することから、羽毛恐竜から飛行能力をもつ鳥類への進化に重要な役割を果たした可能性が示唆されます。
PBCF の発見は、羽の発生および進化の仕組みを解明する新たな手掛かりとなることが期待されます。

ニュース概要
岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(理)の竹内栄教授、相澤清香准教授、環境生命自然科学研究科(博士後期課程)の福地響紀大学院生らの研究グループは、ニワトリを用いた研究から、鳥類の羽毛形成に関与する新規遺伝子「PBCF(pennaceous barbule cell factor)」を発見しました。この遺伝子は、羽毛の微細構造である小羽枝が羽枝軸に付着する過程で特異的に発現します。また、PBCF は飛翔に必要な羽板を形成する小羽枝で発現し、体温保持に寄与する柔軟な綿羽の小羽枝では発現しないことが明らかになりました。このことから、PBCF は、飛翔に適した頑丈さと柔軟性をもつ小羽枝の形成に重要な役割を果たしている可能性が示唆されます。この研究成果は、2025 年 1 月 10 日に国際学術誌『Gene』オンライン版に掲載されました。
PBCF は、分泌型および膜結合型の 2 種類のタンパク質をコードする遺伝子であり、細胞間接着や情報伝達を通じて羽毛の分岐構造形成に関与する可能性があります。また、この遺伝子は鳥類全般に保存されており、一部の爬虫類にも類似する遺伝子が存在しますが、両生類や哺乳類では確認できません。このことから、PBCF は羽毛恐竜から鳥類への進化過程で重要な役割を果たした遺伝子のひとつである可能性が示唆されます。
今回の研究成果は、鳥類の羽毛進化と発生の分子メカニズムの解明に新たな手がかりを提供します。この知見は、鳥類学や進化生物学の分野に貢献するだけでなく、動物の形態形成や機能進化の一般原則の理解を深めることが期待されます。
◆研究者からのひとこと
福地 大学院生
単純なつくりにも見える鳥類の羽毛ですが、その基礎構造ができてから成熟した羽毛が形成されるまでには、非常に細かなステップが積み重なって進むことが分かってきました。細胞同士がコミュニケーションを取り合い、連携してこの段階的で複雑な仕組みを作り上げていると考えると、とても興味深いです。本研究で明らかにした遺伝子以外にも似た役割を持つものが存在するのか、さらに細胞たちの「会話」を探ってみたくなる気がします。
■発表内容
<現状>
鳥類の羽は、中心軸である羽軸、そこから分岐する羽枝軸、さらに羽枝軸から分岐する小羽枝という複雑な階層構造をもち、飛翔、保温、コミュニケーションなどの重要な機能を担っています。この羽の機能や形状を維持する上で、小羽枝は極めて重要な役割を果たしていますが、小羽枝形成の分子基盤については十分に解明されていません。また、羽毛恐竜から鳥類への進化過程で、飛翔を可能にした遺伝子に関しても未解明の部分が多く、多くの謎が残されています。
<研究成果の内容>
本研究では、小羽枝形成に関与する新規遺伝子「PBCF(pennaceous barbule cell factor)」を発見しました。この遺伝子は、小羽枝が羽枝軸に付着する過程で特異的に発現し、飛翔を支える硬い羽板を形成する小羽枝で発現する一方、柔らかい綿羽の小羽枝では発現しないことが明らかになりました(図 1)。さらに、PBCF タンパクは分泌型と膜結合型の 2 種類のアイソフォームをもち、小羽枝の基部細胞で細胞間接着や情報伝達およびその調節を通じて羽毛の分岐構造形成に関与する可能性が示唆されました。
この遺伝子は鳥類全般に保存されているだけでなく、一部の爬虫類にも類似した遺伝子が確認されていますが、両生類や哺乳類では見つかりませんでした。これらの結果から、PBCF は爬虫類から恐竜、そして鳥類へと続く系譜で出現した遺伝子であり、羽毛恐竜から現生鳥類への進化過程で重要な役割を果たした可能性が示唆されます(図 2)。

図 1 羽の階層的な構造と PBCF 発現部位
羽板の走査型電子顕微鏡像と、PBCF の発現部位を示しています。PBCF は、小羽枝の羽枝軸接着部にある細胞で、時期特異的に発現します。

図 2 恐竜から鳥類へ
現生鳥類は、ティラノサウルスが含まれる獣脚類恐竜から進化したと考えられています。
<社会的な意義>
PBCF の発見は、空を飛ぶ鳥類の羽毛がどのように形成されるのか、その分子メカニズムを解明するための重要な一歩です。この成果により、飛翔に適した軽量で頑強な羽毛がどのように進化してきたのかという謎の解明が期待されます。また、生物が進化の過程でどのように形態を獲得し、環境に適応してきたのかという根本的な問いに対する新たな知見が得られる可能性があります。特に、羽毛恐竜から現生鳥類への進化を分子レベルで探ることは、進化生物学や発生生物学に新たな視点を提供します。この研究は、生命の多様性に対する理解を深め、自然への敬意を新たにするきっかけとなるでしょう。
■論文情報
論 文 名:
Identification of pennaceous barbule cell factor (PBCF), a novel gene with spatiotemporal expression in barbule cells during feather development
掲 載 紙:
Gene Volume 941, 2025, 149244, ISSN 0378-1119
著 者:
Minori Nakaoka, Hibiki Fukuchi, Maho Ogoshi, Sayaka Aizawa and Sakae Takeuchi(M.N とH.F は共同第一著者)
D O I:
10.1016/j.gene.2025.149244
U R L:
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0378111925000320
■研究資金
本研究は、科学研究費補助金の支援を受けて実施しました(基盤研究 C:17K07471、 20K06721、23K05851)