ポイント解説:心臓超音波検査による左心室の拡張機能の評価(の続き)

左心室の拡張機能は、主に左心室の弛緩能と左心室壁のコンプライアンスに規定される※2

心臓超音波検査による左心室の拡張機能の評価において中心的な役割を果たすのは、左心室の弛緩能、左心室壁のコンプライアンス、および左心房圧により主に規定される左心室流入血流のE/A比(E波の最高速度とA波の最高速度の比)である※2。左心室流入血流はE/A比に基づいて、以下ののように“正常型”、“弛緩障害型”、“偽正常化型”、“拘束型”にパターン分類されるのが一般的であり、弛緩障害型、偽正常化型、拘束型の順に左心室の拡張機能が悪化して左心房圧が上昇していると判断される※2


ただし、E/A比による左心室の拡張機能の評価にはいくつかの問題点がある。

1 つ目の問題点は、E/A比だけでは正常型と偽正常化型の鑑別が困難なことである。これらを鑑別する代表的な方法としては、左心房のサイズと僧帽弁輪速度の評価があげられる(を参照)。

左心房の拡大が認められれば正常型ではなく偽正常化型であろうと判断できる※2。また、左心室の弛緩能の低下を示唆するE'波の最高速度の低下は、偽正常化型や拘束型においても認められると考えられているため、E'波の最高速度の低下が認められれば正常型ではなく偽正常化型であろうと判断できる※2。E'波の最高速度の低下があると判断できる広く受け入れられたカットオフ値はまだないが、左心室自由壁側のE'波の最高速度が 6 cm/sec未満※2および 7.2 cm/sec未満※3がカットオフ値として提案されている。

2 つ目の問題点は、猫は高心拍数であることが多く、E波とA波が融合している場合にはE/A比による左心室の拡張機能の評価ができないことである。

3 つ目の問題点は、左心室の収縮機能が低下していない病態(肥大型心筋症など)においては表に示したパターン分類のようにはならない可能性があることである※2。肥大型心筋症の猫においては、うっ血性心不全を発症するほどの左心室の拡張機能の低下や左心房の拡大を伴っていたとしても、弛緩障害型に合致するE/A比が認められることがある※2

2 つ目および 3 つ目の問題が発生している場合には、左心房のサイズの評価が左心室の拡張機能が低下しているかどうかの判断に役立つであろう※2

参考文献
1. Luis Fuentes V, Abbott J, Chetboul V, et al. ACVIM consensus statement guidelines for the classification, diagnosis, and management of cardiomyopathies in cats. J Vet Intern Med. 2020;34:1062-1077.
2. Schober KE, Chetboul V. Echocardiographic evaluation of left ventricular diastolic function in cats: Hemodynamic determinants and pattern recognition. J Vet Cardiol. 2015;17 Suppl 1:S102-133.
3. Koffas H, Dukes-McEwan J, Corcoran BM, et al. Pulsed tissue Doppler imaging in normal cats and cats with hypertrophic cardiomyopathy. J Vet Intern Med. 2006;20:65-77.

これまでの連載はこちら
https://media.eduone.jp/list/106/119/


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大菅辰幸 TATSUYUKI OSUGA

2012年 北海道大学 獣医学部卒業
2012年 北海道大学大学院 獣医学研究科 博士課程入学
2013年 日本学術振興会 特別研究員(DC1)
2015年 北海道大学大学院 獣医学研究科 博士課程修了、博士(獣医学)
2016年 日本学術振興会 特別研究員(PD)
2016年 北海道大学大学院 獣医学研究院 客員研究員
2016年 北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター 学術研究員
2017年 北海道大学大学院 獣医学研究院 附属動物病院 特任助教
2020年 宮崎大学 農学部獣医学科 助教

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