ステージB2の治療(の続き)

ステージB2 と診断され、抗血栓薬の投与が開始された猫については、臨床徴候が発現するまでは治療方針は変わらないであろう。ただし、少なくとも、猫の安静時あるいは睡眠時の呼吸数を飼い主にモニタリングさせることは推奨される(エビデンスレベル 中、推奨クラス I)。
・無徴候の肥大型心筋症(Hypertrophic cardiomyopathy:HCM)の猫を用いたランダム化プラセボ対照試験において、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(ラミプリル)やスピロノラクトンは、左心室の心筋重量(LV mass)や拡張能に何も影響を与えなかった※5,6。ただし、これらの研究には少数の家族性のHCMのメイン・クーンだけが用いられたという研究の欠点はある。
・心疾患の猫(無徴候の猫もCHFの猫も含む、約 60%はHCMで他の心疾患も含む)を用いたランダム化プラセボ対照試験において、ACE阻害薬であるベナゼプリルは治療不成功(死亡を含む)が発生するまでの期間に影響を与えなかった※7
・無徴候の心筋症の猫においてピモベンダンが予後に与える影響に関する知見はまだない。

心室性不整脈は猫のHCMや不整脈原性右室心筋症においてよく遭遇する不整脈である。
・複雑な心室性不整脈を有する猫に対しては、アテノロール(6.25 mg/cat PO q12h)あるいはソタロール(10〜20 mg/cat PO q12h、エビデンスレベル 低)を投与することが推奨される(推奨クラス I)。アテノロールはHCMの猫において心室性不整脈の頻度を減少させたことが示されている※8

心房細動の猫の一部においては心拍数が顕著に上昇する。心房細動は主に進行した心筋症の猫において認められ、猫は心房細動による頻脈を許容できない。
・心房細動により心室レートが上昇している猫に対しては、ジルチアゼム、アテノロール、あるいはソタロールを投与することを考慮してもよいかもしれない(エビデンスレベル 低、推奨クラス IIb)。

参考文献
1. Luis Fuentes V, Abbott J, Chetboul V, et al. ACVIM consensus statement guidelines for the classification, diagnosis, and management of cardiomyopathies in cats. J Vet Intern Med. 2020;34:1062-1077.
2. van Haaften KA, Forsythe LRE, Stelow EA, Bain MJ. Effects of a single preappointment dose of gabapentin on signs of stress in cats during transportation and veterinary examination. J Am Vet Med Assoc. 2017;251:1175-1181.
3. Pankratz KE, Ferris KK, Griffith EH, Sherman BL. Use of single-dose oral gabapentin to attenuate fear responses in cage-trap confined community cats: a double-blind, placebo-controlled field trial. J Feline Med Surg. 2018;20:535-543.
4. Hogan DF, Fox PR, Jacob K, et al. Secondary prevention of cardiogenic arterial thromboembolism in the CAT: the double-blind, randomized, positive-controlled feline arterial thromboembolism; clopidogrel vs. aspirin trial (FAT CAT). J Vet Cardiol. 2015;17(Suppl 1):S306-S317.
5. MacDonald KA, Kittleson MD, Larson RF, et al. The effect of ramipril on left ventricular mass, myocardial fibrosis, diastolic function, and plasma neurohormones in Maine coon cats with familial hypertrophic cardiomyopathy without heart failure. J Vet Intern Med. 2006;20:1093-1105.
6. MacDonald KA, Kass PH, Kittleson MD. Effect of spironolactone on diastolic function and left ventricular mass in Maine coon cats with familial hypertrophic cardiomyopathy. J Vet Intern Med. 2007;21:611-611.
7. King JN, Martin M, Chetboul V, et al. Evaluation of benazepril in cats with heart disease in a prospective, randomized, blinded, placebo-controlled clinical trial. J Vet Intern Med. 2019;33:2559-2571.
8. Jackson BL, Adin DB, Lehmkuhl LB. Effect of atenolol on heart rate, arrhythmias, blood pressure, and dynamic left ventricular outflow tract obstruction in cats with subclinical hypertrophic cardiomyopathy. J Vet Cardiol. 2015;17(Suppl 1):S296-S305.

次回は、「猫の心筋症の治療」のステージCにおける治療について紹介する(2 月 15 日公開予定)。

これまでの連載はこちら
https://media.eduone.jp/list/106/119/


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※VETERINARY BOARD 2021 年 7 月号では、「猫の肥大型心筋症 アップデート -HCMとHCM phenotype-」(監修:中村健介先生)の特集を掲載しています。本連載をご執筆いただいている大菅先生にも症例報告をご執筆いただきました。
出版:エデュワードプレス
サイズ:A4判 96頁
発行年月日:2021年7月15日


本体価格 4,400円(税込)

大菅辰幸 TATSUYUKI OSUGA

2012年 北海道大学 獣医学部卒業
2012年 北海道大学大学院 獣医学研究科 博士課程入学
2013年 日本学術振興会 特別研究員(DC1)
2015年 北海道大学大学院 獣医学研究科 博士課程修了、博士(獣医学)
2016年 日本学術振興会 特別研究員(PD)
2016年 北海道大学大学院 獣医学研究院 客員研究員
2016年 北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター 学術研究員
2017年 北海道大学大学院 獣医学研究院 附属動物病院 特任助教
2020年 宮崎大学 農学部獣医学科 助教

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