2020年、米国獣医内科学会(ACVIM)から猫の心筋症の分類・診断・治療に関するコンセンサスステートメントが発表された※1。
心筋症は日々の猫の診療においてよく遭遇する疾患である。心筋症に罹患した猫においては、生涯にわたり何も問題が発生しないこともあれば、うっ血性心不全や動脈血栓塞栓症といった重大な問題が発生することもある。
これまで猫の心筋症の分類、診断、治療には、たとえ猫の心臓病の専門家であったとしても「私はこうしている」という点が多く、このことが臨床獣医師を混乱させたり質の高い臨床研究の実施を妨げたりしてきた。
本連載記事では、2020 年にACVIMから発表された「猫の心筋症の分類・診断・治療に関するACVIMコンセンサスステートメント」を 21 回(予定)にわたって翻訳しながら要約する。また、特に重要と思われるポイントに対しては解説を加える。
第 18 回である今回は「猫の心筋症の治療」のステージB2 における治療について紹介する。

ステージB2の治療
ステージB2 の心筋症に罹患した猫は、うっ血性心不全(Congestive heart failure:CHF)や動脈血栓塞栓症(Arterial thromboembolism:ATE)を発症するリスクがより高い。そのため、ステージB2 の猫については、心筋症が進行していないか、もしくは臨床徴候が発現しないかをモニタリングするべきである。ただし、定期検診を行う際には与えるストレスが最小限となるように猫を扱うことが重要である。もしも、定期健診の際に猫に与えるストレスを十分に軽減できない場合には、薬物(ステートメントの引用文献はガバペンチンに関するものであった※2,3)や合成フェロモンの使用を考慮してもよいかもしれない(エビデンスレベル 中、推奨クラス IIb)。
無徴候の猫におけるATEの一次予防(ATEの初回の発生を予防することを指す)に関する臨床試験はまだ存在しないが、ATEのリスク因子(中等度〜重度の左心房の拡大、左心房の内径短縮率の低下、左心耳血流の流速の低下、もやもやエコー)が存在する無徴候の猫においては、血栓予防を開始することが推奨される(推奨クラス I)。
・抗血栓薬については、クロピドグレルの使用が推奨される(エビデンスレベル 中、推奨クラス I)。ランダム化二重盲検試験においてクロピドグレルはアスピリンよりも猫のATEの再発予防(一次予防ではない点に留意)に有効であったことがその理由である※4。
・ATEが発生するリスクが非常に高いと考えられる場合には、クロピドグレルに他の抗血栓薬を追加することを考慮してもよいかもしれない(エビデンスレベル 低、推奨クラス IIb)。クロピドグレルはATEが発生するリスクを完全に取り除くわけではない。抗血栓薬の組み合わせの例としては、①クロピドグレル + アスピリン、②クロピドグレル + 経口の活性化第X因子阻害薬(リバロキサバンなど)、③クロピドグレル + アスピリン + 経口の活性化第X因子阻害薬、があげられる。