2020年、米国獣医内科学会(ACVIM)から猫の心筋症の分類・診断・治療に関するコンセンサスステートメントが発表された※1

心筋症は日々の猫の診療においてよく遭遇する疾患である。心筋症に罹患した猫においては、生涯にわたり何も問題が発生しないこともあれば、うっ血性心不全や動脈血栓塞栓症といった重大な問題が発生することもある。

これまで猫の心筋症の分類、診断、治療には、たとえ猫の心臓病の専門家であったとしても「私はこうしている」という点が多く、このことが臨床獣医師を混乱させたり質の高い臨床研究の実施を妨げたりしてきた。

本連載記事では、2020 年にACVIMから発表された「猫の心筋症の分類・診断・治療に関するACVIMコンセンサスステートメント」を 21 回(予定)にわたって翻訳しながら要約する。また、特に重要と思われるポイントに対しては解説を加える。

第 16 回である今回は、「猫の心筋症の診断」の種々の臨床的状況に対するアプローチについて紹介する。

無徴候の心筋症を診断するためのアプローチ

無徴候の猫においては心筋症を検出することが難しい場合がある。心筋症への罹患を疑うべき病歴や身体検査所見(奔馬調律、心雑音、不整脈など)を有する猫や、麻酔や静脈内輸液などの処置を行うとうっ血性心不全(CHF)を発症するリスクがあると判断した猫においては、心臓の評価を行うことを考慮すべきである(エビデンスレベル 低、推奨クラス IIa:第12回の表1を参照)。
https://media.eduone.jp/detail/10976/

心臓超音波検査が心筋症の診断において現在最も正確な検査である。また、心臓超音波検査は予後予測に用いる最良の検査である。ただし、心臓超音波検査は検査者の技能の影響を大きく受ける。しかしながら、心臓病学の専門家ではない一般臨床に携わる獣医師であっても適切な訓練を受けて経験を積めば、Focused point-of-careのレベルの心臓超音波検査は実施可能であり、心筋症(特により進行したもの)の診断精度の向上に役立てることができる。

Focused point-of-careの心臓超音波検査は適切な訓練を受けた後にのみ実施することが推奨される(エビデンスレベル 高、推奨クラス I)。また、Focused point-of-careのレベルの心臓超音波検査を実施した後には、フェノタイプの分類を行うために標準的な心臓超音波検査が行われるべきである。

心臓超音波検査を実施できない場合には、NT-proBNPの評価を行うことを考慮してもよいかもしれない(推奨クラス IIb)。血中のNT-proBNP濃度は心筋症の重症化に伴い上昇する。ただし、心筋症の重症度を軽度、中等度、重度に分類するためにNT-proBNPを用いることは、各重症度間で数値に重なりがあるため難しい。

進行した心筋症を検出するためにまず初めに行うスクリーニング検査としてNT-proBNPの計測を行うことを考慮してもよいかもしれない(推奨クラス IIb)。
・NT-proBNPが正常であったとしても、その猫が心筋症(特に軽度のもの)に罹患していないことを保証するものではなく、その猫が生涯心筋症に罹患しないことを保証するものでもない。
・NT-proBNPが正常であれば、その猫がすぐに臨床的に問題を起こす心筋症に罹患している可能性は低いと考えることができる。
・心筋症への罹患を疑う猫においては、NT-proBNPが正常であったとしても、心臓超音波検査を後日行うことを考慮すべきである(エビデンスレベル 低、推奨クラス IIa)。
・NT-proBNPの上昇が認められた場合には常に心臓超音波検査を実施することが推奨される(推奨クラス I)。

心雑音、奔馬調律、不整脈が聴取された猫に対しては、血清サイロキシン濃度の測定と血圧測定を実施することが推奨される(エビデンスレベル 高、推奨クラス I)。また、心臓超音波検査の実施も考慮すべきである(エビデンスレベル 低、推奨クラス IIa)。