小動物臨床に携わる獣医師の皆様は、毎年、狂犬病予防法に則り、狂犬病ワクチン接種に取り組まれていることと思います。獣医師のこの取組みのお陰で、日本は 1958 年以来、狂犬病の無い世界でも稀有の国になっています。これも臨床獣医師の並々ならぬ努力の結晶と深く感謝しているところです。この狂犬病ワクチン接種について、しばしば有害事象(因果関係を問わず、ワクチン接種後の好ましくない事柄)が報告され、死亡例も毎年確認されていることから、臨床獣医師の中にはワクチン接種に躊躇する方が少なからずいることも聞き及んでいます。

しかし、狂犬病ワクチン接種に伴う有害事象についての科学的な疫学情報は限られており、不明な点が多く残されています。今般、麻布大学の研究グループが日本における狂犬病ワクチン接種に伴う有害事象とアナフィラキシーの発現状況についてまとめ、日本獣医学会誌に公表しています1)。そこで今回はこの公表論文の概要を紹介し、狂犬病ワクチンの安全性について考えてみたいと思います。

犬の狂犬病ワクチンによる重篤な有害事象は稀である

報告では、2004 年 4 月から 2019 年 3 月までの 15 年間に農林水産省に報告された 317 例の犬の狂犬病ワクチンによる死亡を含む重篤な有害事象について検討しています(https://www.vm.nval.go.jp/sideeffect/)。報告には、狂犬病ワクチンを接種した獣医師によって犬がアナフィラキシーを発現したと診断されています。アナフィラキシーの診断は、ワクチン接種後に虚脱、チアノーゼ、低体温、呼吸困難、呼吸亢進などの臨床症状が見られることを根拠としています。調査した 15 年間に日本国内で犬に接種された狂犬病ワクチンの総接種回数は 72,573,199 回(平均4,838,213回/年)でした(表参照)

この間、報告された犬の狂犬病ワクチンによる重篤な有害事象は 317 例(0.44/10万回)であり、そのうち 171 頭(54%)が死亡しました(0.24/10万回)。獣医師の診断により、317 頭の犬のうち 109 頭(34%)がアナフィラキシー症状を示し(0.15/10万回)、109 例のうち71例(65%)が死亡しました(0.10/10万回)。アナフィラキシー107例のうち、報告書に症状としてアナフィラキシーが記載されていたのは61例、獣医師が診断したのは45例、本研究で独自に診断したのは 17 例でした。重篤な有害事象と死亡の報告、アナフィラキシーとアナフィラキシーによる死亡の報告の頻度には、年度による有意な差はありませんでした(p>0.05、χ2検定)。いずれの年の報告頻度についても、増加傾向または減少傾向の有意な回帰は認められませんでした。年別のアナフィラキシーの死亡リスクは、わずかに減少傾向を示しましたが、アナフィラキシーは依然として死亡リスクが高いと考えられました。

本研究では、日本における犬の狂犬病ワクチンによる重篤な有害事象の発生率(0.44/10万回)は、米国におけるヒトの狂犬病ワクチンによる重篤な有害事象の発生率(3/10万人)よりも低いことを明らかにしました。日本で狂犬病ワクチンに対するアナフィラキシーを示した犬は109頭(0.15/10万回)であり、ワクチンは異なるもののカナダでの犬およびネコの狂犬病ワクチンに対するアナフィラキシーの報告(3.43/10万回)よりもはるかに低いものでした。これらのデータは、日本における犬への狂犬病ワクチン接種は安全であり、アナフィラキシーを含む重篤な有害事象は稀であると著者は述べています。


表 日本の犬における狂犬病ワクチン接種に伴う重篤な有害事象とアナフィラキシー