2020年、米国獣医内科学会(ACVIM)から猫の心筋症の分類・診断・治療に関するコンセンサスステートメントが発表された※1

心筋症は日々の猫の診療においてよく遭遇する疾患である。心筋症に罹患した猫においては、生涯にわたり何も問題が発生しないこともあれば、うっ血性心不全や動脈血栓塞栓症といった重大な問題が発生することもある。

これまで猫の心筋症の分類、診断、治療には、たとえ猫の心臓病の専門家であったとしても「私はこうしている」という点が多く、このことが臨床獣医師を混乱させたり質の高い臨床研究の実施を妨げたりしてきた。

本連載記事では、2020 年にACVIMから発表された「猫の心筋症の分類・診断・治療に関するACVIMコンセンサスステートメント」を 15 回(予定)にわたって翻訳しながら要約する。また、特に重要と思われるポイントに対しては解説を加える。

第 11 回である今回は「猫の心筋症の診断」の心電図、血圧、サイロキシン測定について紹介する。

心電図

心電図を猫の心筋症のスクリーニングのために用いることは推奨されない(エビデンスレベル 中、推奨クラス III)。猫において 6 誘導心電図が左心室壁の肥厚や左心房の拡大を検出する感度は低い。

猫の心筋症においてはさまざまな不整脈が認められる可能性があり、不整脈が虚弱、失神、あるいは低酸素/無酸素による発作を引き起こすこともある。

間欠的な虚弱や虚脱(発作様の徴候も含む)が認められる猫においては、心臓超音波検査、心電図検査、および必要に応じてテレメトリー式あるいは携帯型(ホルター)心電図検査を行うことが推奨される(推奨クラス I)。ホルター心電図は、猫においては犬よりも耐容されにくいものの、未検出の不整脈を検出できることがある。

また、必要に応じて植込み型ループ式心電計による不整脈の検出も考慮すべきである(エビデンスレベル 低、推奨クラス IIa)。加えて、在宅で心電図を記録する他の選択肢としては、スマートフォン内に心電図を記録できるウェアラブル型心電計(Kardia AliveCor)もある。