2020年、米国獣医内科学会(ACVIM)から猫の心筋症の分類・診断・治療に関するコンセンサスステートメントが発表された※1。
心筋症は日々の猫の診療においてよく遭遇する疾患である。心筋症に罹患した猫においては、生涯にわたり何も問題が発生しないこともあれば、うっ血性心不全や動脈血栓塞栓症といった重大な問題が発生することもある。
これまで猫の心筋症の分類、診断、治療には、たとえ猫の心臓病の専門家であったとしても「私はこうしている」という点が多く、このことが臨床獣医師を混乱させたり質の高い臨床研究の実施を妨げたりしてきた。
本連載記事では、2020 年にACVIMから発表された「猫の心筋症の分類・診断・治療に関するACVIMコンセンサスステートメント」を 12 回(予定)にわたって翻訳しながら要約する。また、特に重要と思われるポイントに対しては解説を加える。
第 9 回である今回は「猫の心筋症の診断」の身体検査、胸部X線検査について紹介する。

身体検査:無徴候の心筋症
胸骨周辺における収縮期性の心雑音は、無徴候の肥大型心筋症の猫においては多くて 80%の猫で、健康な猫においては多くて 30~45%の猫で聴取される。第 3 心音(奔馬調律)は、無徴候の肥大型心筋症の猫においては 2.6~19%の猫において聴取され、健康な猫においては滅多に聴取されない。不整脈が聴取されると心筋症の可能性がある。ただし、聴診上異常が認められない心筋症猫も多い。
心雑音が聴取されたすべての猫において精査の実施が推奨される(エビデンスレベル 中、推奨クラス I)。大きい心雑音(グレード 3~4/6)については、健康な猫よりも肥大型心筋症の猫においてより聴取されやすい。ただし、経過を追う中で心雑音が大きくなっていったとしても、心筋症が存在することや心筋症が進行したことを必ずしも示唆しない。触知されるスリルを伴う心雑音(グレード 5~6/6)については、その原因が心筋症であることは滅多になく、先天性心疾患が原因である可能性のほうが高い。より進行した心筋症、拘束型心筋症、あるいは拡張型心筋症に罹患した猫においては心雑音が聴取されないかもしれない。奔馬調律や不整脈が聴取された猫は心筋症に罹患している可能性がより高い。