2020年、米国獣医内科学会(ACVIM)から猫の心筋症の分類・診断・治療に関するコンセンサスステートメントが発表された※1

心筋症は日々の猫の診療においてよく遭遇する疾患である。心筋症に罹患した猫においては、生涯にわたり何も問題が発生しないこともあれば、うっ血性心不全や動脈血栓塞栓症といった重大な問題が発生することもある。

これまで猫の心筋症の分類、診断、治療には、たとえ猫の心臓病の専門家であったとしても「私はこうしている」という点が多く、このことが臨床獣医師を混乱させたり質の高い臨床研究の実施を妨げたりしてきた。

本連載記事では、2020 年にACVIMから発表された「猫の心筋症の分類・診断・治療に関するACVIMコンセンサスステートメント」を 12 回(予定)にわたって翻訳しながら要約する。また、特に重要と思われるポイントに対しては解説を加える。

第 6 回である今回は「猫の心筋症の有病率と疫学」について紹介する。

猫の心筋症の有病率と疫学

猫の心筋症において最も多いフェノタイプは肥大型心筋症(Hypertrophic cardiomyopathy:HCM)である(そのため、本ステートメントは主にHCMに焦点を当てている)。猫全体におけるHCMの有病率は約 15%であると推定されている。高齢の猫においてはHCMの有病率はさらに高い(過去の報告では最高 29%)と考えられている。他の心筋症のフェノタイプの有病率はわかっていない。

HCM猫のほとんどは無徴候であり、HCMの診断後 5 年間の心臓関連死の累積発生率は診断時の年齢を問わず約 23%である。HCM猫が臨床徴候を呈する原因で最も多いのはうっ血性心不全であり、次いで多い原因は動脈血栓塞栓症である。少数のHCM猫は先行する臨床徴候がないまま突然死する。

正常な猫と比較して、HCM猫は高齢および雄である傾向や大きい収縮性心雑音を有する傾向がある。もちろん、若齢および雌で心雑音が聴取されない猫がHCMを有することもある。ほとんどのHCM猫は非血統であるが、いくつかの品種(メイン・クーン、ラグドール、ブリティッシュ・ショートヘア、ペルシャ、ベンガル、スフィンクス、ノルウェージャン・フォレスト・キャット、バーマン)はHCMに罹患するリスクが高いと考えられている。ただし、どの品種であればHCMの有病率はどれくらいかというまとまったデータはない。

ヒトのHCMにおいては心筋サルコメア(心筋の最小単位)を構成する蛋白質の遺伝子に変異が認められることが多い。猫のHCMにおいては心筋サルコメアを構成する蛋白質において現状 2 つの遺伝子変異が特定されており、両方ともミオシン結合蛋白C(MyBPC3)遺伝子における変異(MyBPC-A1Pおよび-R820W)である。メイン・クーンにおけるMyBPC3-A1P変異の発生頻度は約 35〜42%と推定され、この頻度は本品種におけるHCMフェノタイプの有病率よりも高い。MyBPC3-A1P変異のホモ接合型のメイン・クーン、MyBPC3-R820W変異のホモ接合型のラグドール、およびHCM猫の第一度近親者(両親、兄弟姉妹、子)はHCMに罹患するリスクがより高い。

猫において非遺伝的およびエピジェネティックな因子がHCMの発生に寄与しているかは現状不明である。