ダニ媒介性感染症には、クリミア・コンゴ出血熱や、重症熱性血小板減少症(SFTS)、ダニ媒介脳炎、ツツガムシ病、日本紅斑熱などがあり、ほとんどが人獣共通感染症です。野外活動や農作業、レジャーなどでダニの生息地に立ち入るとダニに咬まれることがあり、ダニが病原体を保有した場合、咬まれたヒトが発病するのです。また、犬や猫も飼い主と行動を共にする機会が多く、またダニが寄生しやすい動物であり、体毛が密集しているので発見が遅れることも多いものです。このコラムでもSFTSの原因ウイルスが犬や猫からヒトに感染した事例を紹介しました( https://media.eduone.jp/detail/10290/ )。

また北海道獣医師会と北海道大学大学院獣医学研究院公衆衛生学教室の共同研究で、北海道に居住する犬の1.5 %でダニ媒介脳炎ウイルスの特異抗体が検出され、付着したダニからウイルスが分離されています。
http://www.hokkaido-juishikai.jp/wp/wp-content/uploads/2019/04/ffd35750077b5dba2af33711cbb6845f.pdf

今般、北海道で新たなダニ媒介性感染症が発見されました。今のところ研究が進んでおらず、犬や猫との関連は不明です。しかし、先の事例もあることから小動物臨床に携わる獣医師であれば新たな人獣共通感染症の情報は必要と考え、ここにエゾウイルス感染症(エゾウイルス熱)の概要を紹介したいと思います。

オルソナイロウイルスの新種をエゾウイルスと命名した

2019年と2020年に山林に滞在してダニに刺咬された患者2名が札幌市内の病院を受診しました。マダニに刺された後、数日から2週間程度の内に発熱・血小板減少といった急性症状を示しました。刺咬部皮膚の所見として、一例では虫刺咬痕と思われる小丘疹とその周囲の発赤が認められ、もう一例では紅斑/色素沈着様の発疹が多数認められました(図1)。それ以外の症状としては、白血球減少、肝機能酵素の上昇、筋原性酵素の上昇、フェリチン値の高度上昇などの異常所見が認められました。患者の検体を用いて免疫不全マウスと培養細胞でウイルス分離を行った材料から、次世代シークエンサーを用いて網羅的ウイルス探索によるウイルス遺伝子断片を検出して解析したところ、オルソナイロウイルスの新種のウイルスが検出され、エゾウイルス(Yezo virus)と命名されました(図2)

患者が発熱していた期間にエゾウイルス遺伝子が血中から検出され,解熱後に消失していたことから、急性の熱性疾患の原因がエゾウイルスであると考えられました。また研究チームはウイルス遺伝子の検出方法と、ウイルスに対する特異抗体の検出方法をそれぞれ樹立し、本感染症の実態把握のための疫学調査を行いました。


図1.患者のダニ刺咬部皮膚の所見
https://www.niid.go.jp/niid/images/plan/kisyo/4_matsuno.pdf


図2.エゾウイルスの電子顕微鏡写真
https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/rakuno.ac.jp/wp-content/uploads/2021/09/22132006/7a7bfbcafe49d6d5b087e212f2d94d3b-2.pdf