2020年、米国獣医内科学会(ACVIM)から猫の心筋症の分類・診断・治療に関するコンセンサスステートメントが発表された※1。
心筋症は日々の猫の診療においてよく遭遇する疾患である。心筋症に罹患した猫においては、生涯にわたり何も問題が発生しないこともあれば、うっ血性心不全や動脈血栓塞栓症といった重大な問題が発生することもある。
これまで猫の心筋症の分類、診断、治療には、たとえ猫の心臓病の専門家であったとしても「私はこうしている」という点が多く、このことが臨床獣医師を混乱させたり質の高い臨床研究の実施を妨げたりしてきた。
本連載記事では、2020年にACVIMから発表された「猫の心筋症の分類・診断・治療に関するACVIMコンセンサスステートメント」を 12 回(予定)にわたって翻訳しながら要約する。また、特に重要と思われるポイントに対しては解説を加える。
第 4 回である今回は「猫の心筋症の定義と分類」の補足事項について紹介する。

猫の心筋症の分類の補足事項
本ステートメントにおいては、心筋症の原因を問わずフェノタイプ(心臓の構造的および機能的な特徴)に基づいて心筋症の分類を行うことを提案している。この分類法は、2008 年にヒトの欧州心臓病学会から発表された心筋症の分類に関するガイドライン※2を基にしている。ヒトにおいては心筋症の分類法が他にもいくつか提唱されているが※3、それらは心筋症の原因(遺伝子変異を含む)が大きく加味されたものである。そのため、原因が特定されることがまれである猫の心筋症においてはそれらの分類法は採用されなかった。
心筋症の各フェノタイプにおいては原因が特定されることがある(図)。心筋症の原因の探索を行うまでは、「その猫は~心筋症フェノタイプに罹患している」と表現する。心筋症の原因が特定されなかった場合には、「その猫は~心筋症に罹患している」と表現する。心筋症の原因となりそうなものが特定された場合には、適宜「その猫は甲状腺機能亢進症を伴った肥大型心筋症フェノタイプに罹患している」などと表現する(原因であるとは断言していない)。

図 フェノタイプに基づく心筋症の分類
HCM:肥大型心筋症、RCM:拘束型心筋症、ARVC:不整脈原性右室心筋症、DCM:拡張型心筋症
ヒトの欧州心臓病学会のガイドラインにおいては、心筋症をHCM、RCM、DCM、あるいはARVCのフェノタイプに分類できない場合、分類不能心筋症(Unclassified cardiomyopathy:UCM)と分類する※2。本ステートメントにおいては、そのような場合には「非特異的フェノタイプを呈する心筋症」と分類することを提案している。また、「非特異的フェノタイプ」と分類する際には、認められる心臓の構造的および機能的異常についても併記することを推奨している(前回https://media.eduone.jp/detail/10859/ を参照)。
本ステートメントにおいて提案する猫の心筋症の分類法の欠点として、時間経過とともに分類されるフェノタイプが変わる可能性がある点は留意すべきである。