心肺停止

安全性の高い麻酔管理はできても、100%安全な麻酔(=死亡率0%)は存在しない。それは膨大な症例数(犬10万頭弱、猫8万頭弱、うさぎ8千頭ほど)を検証したイギリスの論文(Brodbelt et al. 2008)を読めばわかる。Brodbelt et al. (2008) によると、麻酔・鎮静による周術期の死亡率は犬が0.17%、猫が0.24 %、うさぎが1.39%であった。10年以上前の論文ではあるがこれほどまでに大掛かりな研究は他にはないうえに、日本での犬(約4300頭を検証)においての周術期の死亡率も0.65%という報告がされており(Itami et al. 2017)、ゼロリスクを提言するのは難しい。

万が一心肺停止の場面に遭遇してしまったときに的確な行動をとれるよう心肺蘇生(CPR)の手順を知っておくこと(理想は年に数回、院内でのシュミレーションを行うこと)はとても重要である。なお、詳しい心肺蘇生ガイドライン(英語)はRECOVERのホームページ(https://recoverinitiative.org/cpr-guidelines/current-recover-guideline/)からアクセス可能である。



基本的にCPRは一次救命処置(胸部圧迫と人工呼吸)と二次救命処置(モニタリングの開始、血管確保、拮抗薬の投与)に分かれているが、麻酔管理中はいくつかの項目(人工呼吸、モニタリング、血管確保)はすでに行われているため、即座に行う必要があることは胸部圧迫(または直接的な心臓マッサージ)と拮抗薬の投与である。

また、吸入麻酔薬をきることも忘れてはならない。1周期を2分間としながら、胸部圧迫(1分間で約100回)、呼吸管理(1分間で呼吸数約10回、換気量10 ml/kg)、投薬(アドレナリン、アトロピン、拮抗薬など)、記録、飼い主への連絡などのタスクをこなす必要があるため、CPRを指示する獣医師のもとにチームワークを発揮することが求められる。

また、モニタリングの中でもETCO2 は胸部圧迫の効果を示す大事なものであり、胸部圧迫を行う救助者の疲れによるETCO 2 減少を認められた場合、1周期が終わる前でも次の救助者に変わることを強く薦める。ETCO2 が10〜 15 mmHg以下が続く場合は心拍再開の可能性は極めて低くなることも覚えておくとよい。その他には、心電図も心室細動などの不整脈を感知するために重要なモニタリングになる。