2019 年に、免疫介在性溶血性貧血(immune-mediated hemolytic anemia:IMHA)の診断・治療に関するコンセンサスステートメントがアメリカ獣医内科学会(American college of veterinary internal medicine:ACVIM)より発表された。IMHAは赤血球に対し自己抗体が産生されることで発症する代表的な免疫介在性疾患であり、特に犬では溶血性貧血の原因として一般的であること、貧血以外の合併症も多く致死率が高いことから、その診断・治療の理解は重要である。
コンセンサスステートメントは、診断編と治療編の 2 部構成となっている。
・ACVIM consensus statement on the diagnosis of immune-mediated hemolytic anemia in dogs and cats.
・ACVIM consensus statement on the treatment of immune-mediated hemolytic anemia in dogs.
診断編は犬と猫に関する記述であるが、治療編は犬のIMHAに限定されている。猫のIMHAの発生率は犬に比べ低く治療に関する情報が少ないこと、また病気の特徴も異なることから、犬の治療編の内容を単純に猫に外挿することはできない点には注意が必要である。
連載第 12 回目は、抗血栓療法について解説する。

抗血栓療法の適応
IMHA罹患犬の全例に対し抗血栓療法を実施することを推奨する。しかし、重度の血小板減少症(血小板数<30,000/ μL)を併発している場合は例外である。
推奨レベル:強い
根拠:
IMHA罹患犬は血栓症のリスクが高く、主要な死亡要因であることが知られている。特に血管内溶血、赤血球自己凝集、顕著な白血球増多症、肝酵素活性の高値を示す犬では、抗血栓療法の実施が重要であることを過去の報告が示している。またIMHA罹患犬に対する高用量のグルココルチコイド投与、さらにはIVIGの投与も、血栓症のリスクを増加させていると考えられる。
我々は、血小板数 30,000 /μLという値を設定し、これ以下の場合は自然出血のリスクが高まるという理由から、抗血栓療法(特に抗血小板薬)の実施を推奨しないこととした。血小板数が>30,000 /μLの犬の場合、血小板減少症の原因は消費の亢進である可能性が高いため、抗血栓療法の適応になると考える。