臨床のための基礎研究こそが大学の役割

―― 大学院に戻られてからの経緯や研究内容について、詳しくお聞かせください。

 内科の教員として大学に戻り、当初は大学院時代と同じく下垂体の研究を続けていたのですが、2年ほど経ったところでアメリカに留学する機会がありました。アメリカのヒト医学領域の皮膚科ラボで、肺へのメラノーマ転移に関する研究に1年ほど携わりました。帰国してからは下垂体の研究からは徐々に離れていきましたが、その代わり幹細胞、いわゆるステムセルを治療に活用する研究に携わるようになっていきました。

―― 実際の臨床例は、そろそろ出てきているのでしょうか。

 はい。臨床で幹細胞を使われている先生からは否定的な意見はあまりなく、「結構効いたよ」という声も頂戴しています。今後の研究を通じて、なぜ幹細胞がその症例に効くのかを論理立てて明らかにしていければ、今は懐疑的にみている先生も「使ってみようかな」という方向に変わるのではないかと思っています。獣医学の世界は、ヒト医学領域とは違って「とりあえずやってみて、上手くいったら採用しよう」という部分があります。柔軟ではあるものの、それだけでは学問として成り立ちませんし、発展がありません。ある程度しっかりとした、臨床医の先生が活用しやすいデータやエビデンスをいかにたくさん出せるかが、僕ら、大学側の役割なのではないでしょうか。よいデータなら臨床医が新しい治療法として活用されるでしょうし、副作用なども含めたネガティブなデータもしっかり発信していければ、研究への信頼性も高まる。これは私見ではあるのですが、臨床現場では時間的にも設備的にも取り組みづらい基礎研究を担うことこそが、大学教員の仕事なのではないかなと考えています。


―― 最後に、これから獣医師として羽ばたこうとしている若い獣医師に伝えたいことは?

 普段、学生によく伝えることは「考えなさい」ということです。テスト対策の丸覚えができるのは、若くて記憶力があるときだけで、一生通用するものじゃありません。「大学で、年配の先生たちが第一線の診療であれだけ活躍できるのは、丸覚えしているからではなくて、考えてきたからだと思うよ」と、学生によく言っています。自分でじっくり考えて、悩みながら病気を治す。原因を突き止めようとするときに、考える力が養われるからこそ、それまで全然みたことがない病気や珍しい病気でも、アプローチしていって診断ができると思います。最初はしんどいですが、自分で考えなければみたことも経験したこともない症例がきたときに対応できませんし、逆に経験だけに頼るだけでは上手くいきません。今は、カラー画像が豊富な資料や書籍も多く、僕らの学生時
代に比べれば羨ましいほど恵まれた時代です。せっかく武器があるのですから、あとは「自分で考える力」が加われば、よい獣医師に成長していくことができると思います。