「自ら考える力」を鍛えた臨床医時代

―― 大学院で4年間研究された後、一度、外部の一般の病院に2年間勤められたと伺いました。その臨床医時代を振り返っていかがですか?

 最初は全然使いものにならなかったのをよく覚えています。臨床医としての経験が少なく、学部の新卒の先生とほぼ同じレベルでした。当時はやはり「戻れるならば大学院での研究に戻りたい」という気持ちも強かったのですが、今振り返ればあの 2 年間だけでも、一般病院で一次診療に携われたというのは、自分にとって非常によかったのだと思います。

―― 具体的によかったと感じる点は?

 大学病院に来院するケースというのは、一次診療で色々と治療して、上手くいかないから、紹介としていらっしゃるわけですよね。その一次診療のプロセスが、大学だけにいるとはっきりとはみえないですし、類似の症例が実際にどのくらいあるのかもつかみにくいといえます。一般の病院に勤めることで、自分で学びとる機会をもてたのがすごくよかったと思います。
 
 もう一つ、何よりよかったと思うのは「学び直し」ができたことです。最初に勤めた一次診療の院長は、聞けばなんでも教えてくださるものの、「とりあえず自分で一回調べてみる」ことを大事にされていました。知識は自分で考えて初めて身につくものですし、逆に経験だけで判断するのも違うな、と気付かせていただきました。「この薬を飲めば治る」とか、「これまでに俺がみた症例はこうだからこうだ!」というのではなくて。優れた臨床家は、誰が聞いても理解できるような筋道を、きちんと説明できる獣医師なのだと考えるようになりました。大学はどうしても専門診療に特化して視野が狭くなりがちな側面もあります。今、消化器や内分泌の病気を想定しても、「実は腎臓にも問題があるのではないか?」など、他の疾患を含めて考えることができるようになったのは、一次診療での経験があるからだと思っています。


―― 考える力を身に着けるために相当な努力をされたのですね。

 そうですね。1つの症例からなるべく沢山の情報と知識を仕入れられるようにと考えていました。大学院に行っていた分、同期に比べれば臨床に携わるのが4年は遅くなったわけですし、それは簡単に埋められる差ではありません。私は覚えることが得意な方じゃないですから、「考える力をつけて、同期との差をカバーしよう」と考えました。例えば、「昨日から下痢をしています」という症例の場合なら、薬を飲めばすぐに治るだろうと想定できたとしても、まずは検査で異常値が出ているのはなぜか、それがどうしてこの症状につながるのかということを、意識的に考えるようにしていました。

―― 弊社が発行している「SA Medicine」も、一次診療医時代に活用くださっていたとお聞きしています。

 SA Medicineの初期シリーズなどを大学の図書館で全部コピーして、ファイルに閉じて活用していたのを覚えています。著作権法的には、本当はいけないのかもしれませんが(笑)。当時は実際に症例を目の当たりにしても、どうすればいいかさっぱりわからない状態でしたから、かなり参考にさせてもらいました。生理学や解剖学の細かい情報も網羅されていて、実際の治療ではそこまで詳しい情報が必要ない場合もあったかもしれないのですが…。でも、今思えば付随するその他の疾患の鑑別につながったり、自分の知識になったり。すごく力をつけられる、好きなシリーズでした。