はじめに

病気の犬や猫などの伴侶動物から、医療上重要な薬剤耐性菌が牛や豚や鶏以上に高頻度に分離されることが報告されています1)。特に 2019 年の基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌を多く含むと考えられる第 3 世代セファロスポリン系薬であるセフォタキシム耐性大腸菌の分離率が、犬由来株では 26.4%、猫由来株で 26.6%であったのです。また、フルオロキノロン系薬では、犬由来株では 38.8%、猫由来株で 37.5%とさらに高い耐性率でした。このような薬剤耐性菌の選択圧として最も考えられるのは、小動物病院における抗菌薬の過剰使用にあると考えられます。以上のような状況を憂慮し、自らの小動物病院における抗菌薬を使用制限した結果、薬剤耐性菌の減少を確認したとする研究報告2)を紹介したいと思います。

実践したのは茨城県古河市で開業されている栗田吾郎獣医師になります。栗田先生は 2014 年に第 3 世代セファロスポリン系薬の使用量が動物あたり 13.5 mg(6.8%)でフルオロキノロン系薬では 1.6 mg(0.8%)であったものを、2016 年から抗菌薬の使用制限を導入し、2018 年には前者が 0.2 mg(0.1%)、後者が 0.1 mg(0.0%)に削減しました(図1)

このとき、犬の膿皮症からしばしば分離されるStaphylococcus intermedius group(SIG)のメチシリン耐性株の感受性に対する割合は 2015 年の 41.5%から 2018 年の 9.3%に減じ、ESBL産生大腸菌株の非産生株に対する割合は 2015 年の 29.5%から 2018 年の 9.5%に減じることに成功しました(図2)

このとき、SIGに対するβラクタム系薬とβラクタマーゼ阻害薬の合剤、エリスロマイシン、キノロン系薬の感受性株の分離頻度が高まりました。また、ESBL産生大腸菌では、ペニシリン系薬、ゲンタマイシン、ミノサイクリン、フルオロキノロン系薬の感受性株の分離頻度を高めました。したがって、広域スペクトルの第二次選択薬の使用を制限することにより、第二次選択薬の感受性を高めただけでなく、使用可能な第一次選択薬を増やしたことになります。