先に、小動物病院におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の院内感染状況について解説しましたが、MRSA以外でもブルセラ病や重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の院内感染事例が報告されています。では小動物病院において院内感染を促進する要因は何なのでしょうか?

最近、私たちはタイ国カセサート大学獣医学部と共同研究で、附属動物病院での院内感染を促進する因子に関するソーシャルネットワーキング分析(SNA)(※1)を行い、獣医師が院内感染の発生や拡大に重要な役割を担うことを明らかにしましたので紹介したいと思います。

バンコクのカセサート大学附属動物病院で、院内感染調査を実施

まず、今回の解析に使われたSNAについて紹介します。
ソーシャルネットワーキングとはヒトや会社などの社会的単位(アクターと呼びます)および、それらの間の関係によって構成されるネットワークです。SNAとは、そのようなネットワークを対象として、そこに含まれる特性を解明する作業になります。応用例としてはビジネスで企業グループ経営の効率化や非効率的な部門の特定などに利用されるとともに、感染症伝染シミュレーションにも応用されています。分析に際してはネットワーク図として視覚的に表現します。 

今回の分析の対象としたのは、バンコクにあるカセサート大学附属動物病院(Bang Khen)で、下の写真のように日本では考えられない巨大な建築物であり、外見上はヒトの病院と遜色ないものです。


Kasetsart University Veterinary Teaching Hospital(カセサート大学附属動物病院)

大学には4つの附属動物病院があり、バンコク市内にあるこの動物病院が最も規模の大きいものです。一次診療も実施しており、1日の来院数は500例以上となっています。病院には診療科と血液バンクなどの関連部門を合わせて29科があり、140名の獣医師と約300名のスタッフが働いているそうです。同じバンコクにあるチュラロンコーン大学にも同様な附属動物病院があり、タイの獣医学教育の中では伴侶動物医療に力を入れていることが分かります。

今回の調査は外来部門(OPD)、救急診療部門(CCU)、病棟、手術室(OR)の4つを対象としました。また、院内感染を拡大する要因として、ヒトやイヌの動きや、獣医療用品や機器や器具との接触としています。