世界的に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の収束が見通せない状況が続いています。日本では2021年3月9日現在の感染者数は12,317名で、累計感染者数は441,798名とされています。また、8,365名の方が亡くなっています。

現在、COVID-19に対する治療薬は、抗ウイルス薬レムデシビルが特例承認され、抗インフルエンザウイルス薬ファビピラビル、喘息治療薬シクレソニド、膵炎治療薬ナファモスタッドなどの有効性の確認が治験として行われています。しかし、残念ながらこれといった治療薬はいまだ明らかではなく、世界的に有効な治療薬が待たれています。

動物用駆虫薬として有効に作用した「イベルメクチン」

イベルメクチン(Ivermectin)は2015年のノーベル生理学医学賞を受賞した大村智先生が発見した、16員環マクロライド系の抗生物質です。抗生物質でありながら細菌に対する抗菌作用はなかったのですが、寄生虫(鉤虫、回虫、肺線虫、糸状虫などの線虫類)に対して極めて有効に作用し、1981年から人体に先駆けて動物用駆虫薬として、ウマ、イヌ、ウシなどの動物に使用されています。

イベルメクチンは線虫の神経又は筋細胞に存在するグルタミン酸作動性クロライドチャンネルに高い親和性を持って結合し、これによりクロライドイオンに対する細胞膜の透過性が上昇して神経又は筋細胞の過分極を引き起こすことにより、寄生虫が麻痺を起こし死に至ると考えられています。日本では最初にウマの線虫(大円虫、小円虫、馬回虫)用の駆虫薬として販売され、その後、飼い主を悩ませていた犬糸状虫症(フィラリア症)の予防薬として承認されました。

従来、犬糸状虫症には副作用の強いヒ素薬や心臓内の寄生虫を外科的に摘出する治療法しかなかったものに、画期的な予防法を提供することになりました。当時の動物薬では最大のヒット商品となり、数年にわたり動物薬でトップの販売量を記録しました。その後、疥癬や毛包虫や節足動物にも効果のあることが明らかにされ実用化されています。一方、医療に対してもヒトのオンコセルカ症に対しても極めて有効なことが明らかとなり、さらに東南アジア、太平洋地域、中東、アフリカから中南米の熱帯地域に多数の患者がいるリンパ性浮腫と象皮症を主徴とするリンパ系フィラリア症、東南アジアなどの熱帯・亜熱帯地域で流行している皮疹や肺症状、下痢を伴う腹痛などの症状を示す糞線虫症やヒゼンダニの寄生によるヒトの疥癬の治療にも優れた効果があることが明らかとなり実用化されています。

なお、大村智先生に授与されたノーベル医学生理学賞の受賞理由は、世界的に人類を苦しめている線虫の寄生によって引き起こされる感染症に対する新たな治療法の発見に対してでした。