医療分野での対策、動物分野での対策

まずは医療分野から見てみたいと思います。厚生労働省は医療分野におけるAMR対策として国立国際医療研究センター内にAMR臨床リファレンスセンターを設置し国民向けに普及・啓発活動を強化しています。専用のWEBサイト²⁾を見てみると、AMRあるある川柳を公募したり、一般向けや医療従事者向けの薬剤耐性菌や抗菌薬のさまざまな情報を発信し、活動を促進するための新しいツール・資材(動画やイラストなど)・ポスターを配布しています。また、センター職員が積極的に地方に足を運び、一般向けや医療従事者向けのセミナーを開催してAMR対策の重要性を広めています。

では、このような活動に対して、一般国民のAMRに関する理解度はどのようになっているでしょうか?


図1を見ていただくと、2017年度から2019年度に約3,000名に対してアンケート調査を行ったところ、抗菌薬に関する理解度は全く高まっていないことが分かります³⁾。具体的には抗生物質がウイルスに対して有効であるとか、風邪やインフルエンザなどのウイルス性感染症に有効と認識している方が5割近くおり、年度の差もあまりないことが分かります。つまり、ここが薬剤耐性菌の出現要因である抗菌薬の過剰使用や誤用に繋がる一つの理由になっているのです。さらに酪農学園大学附属とわの森三愛高校の有志生徒が実施した在校生や親・教員に対する意識調査(図2)を見ても、図1とほとんど変わらない結果が得られています(Q2)。

つまり、成人のみならず青年層でも同じ傾向なのです。このことからも、これだけ多くの費用をかけ、多くの人材を投入して様々な普及啓発活動をしているにもかかわらず、国民全体にほとんど浸透していないことに愕然とします。


一方、動物分野ではどうでしょうか? 図3に2017年度と2018年度に実施した家畜飼養者に対する国内行動計画の認知度に関するアンケート調査成績を示しました⁴⁾。


あれだけ内閣府が力を入れて有名タレントも使ってキャンペーンを展開し、メディアにも何回も取り上げられた国内行動計画です。農林水産省もことあるごとに宣伝したものの、残念ながら家畜飼養者の認知度は家畜全体で3割に満たないという結果でした。ただ抗菌薬の使用量の最も多い豚の飼育者の認知度が高かったのが救いでした。さらに抗菌薬の使用者でAMRに対して関心の高いと思われた産業獣医師の認知度を図4に示しました。


家畜飼養者よりは高いものの、驚くことに全体で5割程度しかありませんでした。抗菌薬の使用現場の最前線にいる獣医師がこの程度ですので、家畜飼養者の認知度が低いこともうなずける話です。