■はじめに/読者の皆様へ
皆さん、初めまして。酪農学園大学の田村 豊と申します。
今年の27月まで獣医学群食品衛生学ユニットに所属し、獣医学生に対して獣医公衆衛生学の教育と、
動物と環境由来薬剤耐性菌の分子疫学に関する研究に従事していました。
今回、縁あってEDUWARD MEDIAにおいて獣医学関連の最新の話題について
「今週のヘッドライン 獣医学の今を読み解く」と題して
シリーズでコラムを書かせていただくことになりました。
大学の講義の最初に「今週のヘッドライン」として話していた、獣医学関連の話題を継承するものです。

毎週のように獣医学関連のニュースが引きも切らずに国内外から公表されています。
今回は読者が小動物医療関連の獣医師や動物看護師が中心ということで、
小動物医療関連の話題を中心に解説していきたいと思います。

また、獣医学全般の話題でも皆さんに知っておいて欲しいものも取り上げます。
世界で刻々と動いている獣医学の今を肌で感じていただければ幸いです。
是非とも興味を持っていただき、継続してお読みいただけることを期待しています。

酪農学園大学名誉教授 田村 豊

はじめに

犬や猫と同じ生活空間を共にしていると、動物に舐められたりするなど飼い主と濃厚な接触があると思われます。犬や猫の口腔内には様々な細菌が常在菌として生息しています。これまで多くの犬や猫の口腔や鼻腔に生息するPasteurella multocidaが問題視され、この細菌により飼い主が感染することの注意が喚起されてきました。2006 年 11 月に多臓器不全の診断で 75 歳の女性が東京都内の医療機関に緊急搬送され、ペットの犬による咬傷による敗血症と診断されました¹⁾。患者の血液培養からCapnocytophaga canimorsusという聞きなれない細菌が分離され、希であるものの死に至るペット由来感染症として注目されました。また、2018 年 8 月 2 日のCNNニュースでは、明確な原因菌は特定されていないものの、48 歳の男性が犬に舐められることにより感染症に罹り、両手両足を切断したことが大々的に報道されました(https://www.cnn.co.jp/usa/35123474.html)。

現在、新型コロナウイルス感染症の蔓延で在宅勤務が一般化し、ペットとの触れ合いの時間が長くなっていると考えられることから、臨床獣医師としてカプノサイトファーガ感染症を再認識することは重要と考え、今回はこの感染症の概要を紹介したいと思います。