オウム病とは

オウム病はオウム病クラミジア(Chlamydophila psittaci)がヒトの気道に感染し、1?2週間の潜伏期間を経て、発熱、咳(通常は乾性)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛、関節痛などの症状が出現する感染症です。クラミジアとは偏性細胞内寄生性の細菌で、分類上は細菌とウイルスの中間に位置する微生物になります。オウム病の多くはオウム病クラミジアを保有する鳥類が感染源となる場合が多いようですが、猫や犬といった哺乳類からの感染もあります(図1)。


鳥類の内、60%がオウム・インコ類であり、その内の1/3がセキセイインコといわれます。ドバトの保菌率は約20%と高く、ヒトへの感染源になると考えられています。鳥類は保菌しても外見上健康に見え、弱った時やヒナを育てる期間に排菌するといわれます。感染している鳥類は容易にテトラサイクリン系抗生物質で治療が可能であり、オウム病を予防する効果も期待できます。

オウム病は感染症法で全数把握疾患の4類感染症に指定されています。年度別の報告数(図2)を見ると、2006年度から2017年度に年平均9.4例と毎年報告され、やや減少傾向が認められています。


都道府県別に見ると、東京都(12例)と神奈川県(12例)で多いようです。性別では男性73例で女性56例と、男性がやや多い傾向にあります。感染した男性の年齢の中央値は62歳(範囲:11?95歳)で、女性は50.5歳(範囲:9?91歳)でした。月別の報告数を見ると、5?6月がやや多い傾向にありました。では医療現場でオウム病はどの程度検出されるのでしょうか?内田らの報告(2001)²⁾によれば、少し古いデータですが、最も多いのが猫ひっかき病(30.9%)で2番目が皮膚糸状菌症(21.3%)、3番目がオウム病(18.5%)となっており、医療現場で検出される人獣共通感染症としては多いようです(表1)。


 症状については、発熱[125例(97%)]、咳嗽[71例(55%)]が比較的多くの症例で認められ、呼吸困難[35例(27%)]、頭痛[32例(25%)]、筋肉痛[24例(19%)]、意識障害[17例(13%)]、粘性痰[13例(10%)]も認められました³⁾。所見としては、肺炎は92例(71%)、播種性血管内凝固症候群 (DIC)は7例(5%)で認められました。また、43例(33%)は呼吸器症状(咳嗽、呼吸困難、粘性痰)の記載がなく、そのうち19例には肺炎の記載がありませんでした。届出時の死亡症例は3例(2.3%)で、20代、30代、60代の女性でした。発症から死亡までの日数は4?6日でした。20代の症例は妊婦(妊娠24週)と記載されていました。

動物からの感染が確定または推定された症例は110例(男性63例、女性47例)であり、19例の感染原因は不明とされていました。110例のうち101例が鳥類から感染したと推定され、9例は接触した動物の種類に関する記載がありませんでした。感染源とされた鳥類の種類については、単一種類の動物を記載したものは、インコが56例(男性21例、女性35例)と最も多く、ハトが27例(男性26例、女性1例)でした。上記の110例のうち、ペットショップ勤務の方が3例(いずれも女性)含まれていました。鳥や動物自体との直接的接触の記載がない症例は10例でした。

以上、オウム病について紹介しました。ペットとして鳥類を飼育する家庭はそれほど多くないものの、ドバトなどの野生の鳥類や、犬や猫などの哺乳類もオウム病クラミジアを保菌する可能性があり、わが国で死亡例も報告されていることから、人獣共通感染症として重要なものと位置づけられます。少なくとも家庭内で飼育する小鳥の世話をするに当たっては、終了後に手洗いを励行し、糞便の処理を速やかに実施するなどの注意が必要に思います。なお、オウム病に関して詳しく知りたい場合は感染研から総説⁴⁾が公表されていますので参考にして下さい。


1) 滋賀県:オウム病の集団発生疑いの事例について
https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5255331.pdf
2) 内田幸憲,井村俊郎,竹嶋康弘:神戸市および福岡市医師会会員への動物由来感染症(ズーノージス)に関するアンケート調査.感染症学雑誌 75:276-282,2001
3) 国立感染症研究所:日本におけるオウム病症例発生状況(2006年4月1日?2017年3月31日)と妊婦女性におけるオウム病
https://www.niid.go.jp/niid/ja/psittacosis-m/psittacosis-idwrs/7404-psittacosis-20170725.html
4) 国立感染症研究所:オウム病(psittacosis)とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/366-psittacosis-intro.html


田村 豊 Yutaka Tamura

酪農学園大学名誉教授

1974年 酪農学園大学酪農学部獣医学科卒業
1974年 農林水産省動物医薬品検査所入所
1999年 動物分野の薬剤耐性モニタリング体制(JVARM)の設立
2000年 検査第二部長
2004年 酪農学園大学獣医学部獣医公衆衛生学教室教授
2020年 定年退職(名誉教授)

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