■はじめに/読者の皆様へ
皆さん、初めまして。酪農学園大学の田村 豊と申します。
今年の7月まで獣医学群食品衛生学ユニットに所属し、獣医学生に対して獣医公衆衛生学の教育と、
動物と環境由来薬剤耐性菌の分子疫学に関する研究に従事していました。
今回、縁あってEDUWARD MEDIAにおいて獣医学関連の最新の話題について
「今週のヘッドライン 獣医学の今を読み解く」と題して
シリーズでコラムを書かせていただくことになりました。
大学の講義の最初に「今週のヘッドライン」として話していた、獣医学関連の話題を継承するものです。

毎週のように獣医学関連のニュースが引きも切らずに国内外から公表されています。
今回は読者が小動物医療関連の獣医師や動物看護師が中心ということで、
小動物医療関連の話題を中心に解説していきたいと思います。

また、獣医学全般の話題でも皆さんに知っておいて欲しいものも取り上げます。
世界で刻々と動いている獣医学の今を肌で感じていただければ幸いです。
是非とも興味を持っていただき、継続してお読みいただけることを期待しています。

酪農学園大学名誉教授 田村 豊

はじめに

 以前のこのコラムで難治性の消化管疾患で他人の糞便を移植して治療する便移植療法の有効性と課題について紹介しました。一般方々には思いも寄らない治療法で驚かれた方も多かったと思われます。一方、感染症治療といえば思いつくのは抗菌薬による化学療法であると思います。しかし、多剤耐性菌の蔓延や宿主側の影響により、抗菌薬の効果がほとんど認められない症例も知られています。特に重度の糖尿病患者が感染症を発症した時には深刻な状況に陥ることが知られています。このような状況の中、ハエの幼虫であるウジを治療に利用するマゴット療法(maggot therapy)について紹介したいと思います。

 皆さんは糖尿病について良くご存じだと思います。特に高齢者の皆さんにとっては、身近な病気であり、今や国民病ともいえるものです。医学的には、膵臓で分泌され血糖を調節するインスリンの作用不足により慢性の高血糖状態になる病気です。糖尿病には、1型と2型に分けられます。1型糖尿病は、インスリンを分泌する膵臓の細胞が破壊されることにより起こり、若年者に多いといわれています。また、2型糖尿病は、運動不足や、過食、肥満、ストレスなどによりインスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたし高血糖に成ることで、主に中高年から発症します。この高血糖状態が長期間にわたり続くと、神経障害や血流障害といった合併症が生じます。一方、イヌやネコにも糖尿病が知られており、イヌはⅠ型、ネコはⅡ型に近いものが多いとされています¹⁾。理由は不明ながらイヌの場合はメスの方が多く、ネコではオスに多く発生すると言われております。ネコの糖尿病と肥満との関係が知られており、肥満は糖尿病のリスクを約4倍も高めるとの報告もされています。