猫アレルギー対策への期待

では今回はネコアレルギーワクチンに関する論文²⁾の概要を紹介します。これは猫をFel d 1で免疫することにより、飼い主である人間のFel d 1誘発性アレルギーを予防することを目的に実施されたものです。まず使用したワクチンですが、組換Fel d 1と破傷風毒素由来の普遍的なT細胞エピトープtt830~843を含むキュウリモザイクウイルスに由来するウイルス様粒子の混合ワクチンになります。この部分は今回の研究の最も肝になるもので、自己抗原(Fel d 1)に対する自己寛容(自己抗原を認識しないこと)を回避するためにT細胞エピトープを付加したワクチンを用いたところにあります。つまり、自己抗原を自己に接種しても免疫ができないことから、このような手法を用いているのです。さらに抗原のキャリアープラットフォームとして植物ウイルス様粒子を用いたことが特徴といえます。

このワクチンには明らかな副作用は認められず、投与された54匹すべての猫に強くて持続的な特異的IgG抗体を誘導しました。この抗体は試験管内あるいは生体内で強力なFel d 1の中和活性を示し、内因性のアレルゲンレベルを低下させ、涙のアレルゲン誘発性を低下させました。以上のことから、実際に飼い主への効果に関するデータはありませんが、ワクチンを投与した猫はFel d 1に対する中和抗体を産生し、ネコアレルギーである飼い主の症状を軽減する可能性があると述べています。

このように極めて斬新的なアイディアで作成されたワクチンで猫を免疫し、飼い主のネコアレルギーを予防しようとする試みですが、承認申請するに当たって法的に様々な問題を提起するものと考えます。つまり、Fel d 1自身は猫に対して病気を誘発するものでないもので、このワクチンは投与した猫の病気を予防するものでも、治療するものでもないことです。あくまで飼い主に対するアレルギー誘発を抑制するためのものであり、これが動物用医薬品なのかどうかということは議論されるものと思います。どちらかと言えば公衆衛生対応型ワクチンであり、これまでも鶏サルモネラ症ワクチンでも似たような状況でありました。

したがって、日本で承認申請する場合は規制当局と十分な検討をする必要があると思います。いずれにしても、新規性の高い本ワクチンが実用化されれば、アレルギー体質を持つ愛猫家にとって朗報ですし、捨て猫が減り、家庭での飼育率の向上につながっていくものと期待され、今後の研究の進展が待たれます。


1)Chan SK and Leung DYM: Dog and cat allergies: Current state of diagnostic approaches and challenges, Allergy Asthma Immunol Rev 10(2):97-105, 2018.
2)Thomas F., et al.: Immunization of cats to induce neutralizing antibodies against Fel d 1, the major feline allergen in human subjects, J Allergy Clin Immnol, 144(1):193-203, 2019.


田村 豊 Yutaka Tamura

酪農学園大学名誉教授

1974年 酪農学園大学酪農学部獣医学科卒業
1974年 農林水産省動物医薬品検査所入所
1999年 動物分野の薬剤耐性モニタリング体制(JVARM)の設立
2000年 検査第二部長
2004年 酪農学園大学獣医学部獣医公衆衛生学教室教授
2020年 定年退職(名誉教授)

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