この連載も残すところ2回となりました。今回は、実際の鍼灸治療の流れを経絡・経穴のお話を交えながらご説明いたします。
それではみていきましょう!

経絡と経穴

まず、第6回でお話した経絡と経穴の内容を少し復習します。

臓腑(からだの内側)と体表(からだの外側)をつないでいるのが「経絡」で、「気・血・津液」の通り道です。「心経(心の経絡)」「小腸経(小腸の経絡)」という風に、それぞれの臓腑と主に対応する経絡があり、この「経絡」上の「経穴(ツボ)」を刺激することで、その経穴が所属する経絡に影響を及ぼし、治療効果を発揮していきます。


経穴(ツボ)は、臓腑の調子が悪いときには押すと痛かったり、膨らんだり凹んだりと反応が出る部分でもあります。そして、それぞれの経絡は全て繋がっているので、例えば後躯や四肢の経穴を使って前半身や全身に影響を与えることも可能なのです。
ツボには、特効穴と呼ばれる、「この症状にはこのツボが効く!」というものがあります。
例えば先ほどのイラストの駅名にも出てきた「合谷」というツボは「面口(面目)は合谷に取る(顔や口、目の疾患には合谷を用いましょう)」という言葉があるように、顔面の諸疾患には効果が高いのです。しかし、例えば「顔面神経麻痺があるからこのツボだ」「腰が痛そうだから、このツボに刺せばいいだろう」と、「症状⇒対応するツボ」を選ぶだけでは、単なる対症療法になってしまい、今まで学んできた基礎理論は必要なくなってしまいますね。大切なのは、その個体が、本来どこが良くないのかを診断し、「陰と陽のバランスはどうなのか」「全体として熱なのか寒なのか」「表に出てきている症状以外にも、良くない部分が隠れていないかどうか」などを総合的に診断して、治療していくことなのです。

また、鍼を刺す順序にも気を付ける必要があります。例えば膝が悪いからといって、いきなり後肢のツボに鍼を刺したりすると、気分が悪くなったり、ひどいと失神をしてしまうなど、からだにやさしい治療法とは言え副作用のような状態が現れることもあるので注意が必要です。写真は、その予防としての意味もある「大椎」というツボに刺鍼をしているところです。


さらに、例えば腰を良くしたいから、腰回りにたくさん鍼を刺せばよいかというとそういうわけではなく、鍼を刺し過ぎると使うツボの効果が減弱してしまう可能性があります。たくさん刺している方が「いかにも治療している感」があるのですが、実は少ない鍼の方が、治療の効果は大きくなります。
筆者が実践しているのは、故・温雪楓博士が考案された3-E針法(3つのEはEconomy/Efficient/Effectiveを表す)を応用したV3‐EAS(Veterinary 3-E Acupuncture System)という針法ですが、少ないツボの数でも小さな動物には刺激が十分で、時間も短時間で終われるので嫌がられることが少なく、小動物診療にも適した方法です。また、刺激に敏感な動物には、刺さないダイオード針や圧針器を用いたりと工夫もできます。


鍼灸治療で使う道具は少なくて済みます。鍼は写真のようなディスポーザブルなものと、滅菌して繰り返し使う金属製のものがあります。灸は、ヨモギの葉から作られる艾(もぐさ)と、皮膚や毛を直接燃やさないための灸点紙、火をつける線香があればできます。灸法には直接灸といって、皮膚に直接艾を載せて行う手技もありますが、動物の場合は基本的に熱過ぎると次回以降の施術が難しくなるため、このような灸点紙などを用いて行う「間接灸」の手技で行います。棒灸は、ご家族が自宅でも行うことができる間接灸の一種で、病院で行う治療の補助としても有効です。


経絡をもう少し詳しくみてみると、「経=経脈」「絡=絡脈」と分けることができますが、実際の治療では、経絡の中でもそれぞれの臓腑に属し、からだの左右対称に走行する十二正経(十二経脈)と、からだの正中線上を走る督脈・任脈という奇経を用いることが多いです。十二正経上には、からだの左半身・右半身に対称に同じ名前のツボがあるわけですが、左右で効果が変わる場合もあり、全体の治療方針を立てるときには使う順番とともに左右にも気を配ります。


いかがでしたでしょうか。
さて、次回が最終回となります!それでは皆様、お元気でお過ごしください!


青木志織 Shiori Aoki

ウィルどうぶつクリニック

大学在学時より中医学を志す
日本獣医中医薬学院卒業
1 級獣医中医師/獣医推拿整体師
現在、中医学気功も勉強中

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