今回から、前回までにも出てきた「五臓六腑」などが、どのような働きや関わりを持ちながら生命活動を維持しているのかを順番にお話ししていきます。実際に鍼やお灸を施す「経穴(ツボ)」のお話も出てきますよ!ぜひ最後まで読んでみてくださいね。

治療効果だけでない鍼灸の良さ

まず前回までの連載で、なぜ寝ているどうぶつの写真が時折挿入されているのかというお声をいただきました。もちろん患者さんたちの鍼灸中のお写真です。深く眠っているわけではありませんが、鍼を刺したりお灸をすえたりしている間に、自然と眠くなったり、落ち着いてくれることが多いのです。中には、開始5分でいびきをかいて寝始める患者さんもいらっしゃいますよ。もちろん、緊張しやすかったり神経質な患者さんの場合は慣れるのに時間がかかることもありますが、ほとんどの場合、鍼やお灸自体の刺激を拒否することはありません。どうしても鍼を刺す刺激を嫌がる場合は、刺さない鍼での刺激や、指圧のみで行うこともあります。

鍼灸治療の目的はリラクゼーションではありませんが、慢性疾患があったり、生まれつきの骨格のバランスの悪さから常にどこかを傷めやすかったり、「気不足」(第5回をご参照ください)の状態だったりする患者さんたちは、気持ち良くなりつつ治療効果も期待できる鍼灸はどうぶつにとっても、もってこいの方法の一つだと日々感じています。食欲や気力がアップすれば、西洋医学的治療の効果を大きくすることにも役立ちますね。

私が行っている手技は、できるだけ鍼の数を少なくし、使う経穴(ツボ)の効果を最大限に引き出すものなので、写真でもどこに鍼があるの?とわからなくなるくらいなのですが、それだけでも実は刺激としては十分で、どうぶつにもやさしい手技なのです。
ただし、使う経穴(ツボ)が少ない分、「どこを使うか?」ということが大切になってきます。
そしてどの経穴を使うかは、四診と中医学的診断(弁証)をして決めますが、その過程で、第5回までにお伝えした「陰陽」「五行」「気」などの大切な考え方と、これからお話する「蔵象(ぞうしょう)論」が診断をする際の重要な材料となります。

蔵象論では、「臓腑」を「臓」「腑」「奇恒の腑」の3つに分けて考え、それらが互いにどのように関わり合いながら、表に出てくる生理現象や病理現象とどのように結びついているのかを考えます。
① 臓(ぞう):肝・心・脾・肺・腎(・心包)
(心包を臓に含め、六臓と言う場合もあります)
② 六腑(ろっぷ):胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦
③ 奇恒の腑と呼ばれる脳・髄・骨・脈・胆・女子胞(子宮)

「臓」は気血を生み精気を蓄える生命活動の中枢となる器官、「腑」は水穀(飲食物)を受け取り変化させていく中空器官、「奇恒の腑」は形は腑に似ているけれど水穀とは触れず、でも精気を蓄えるので臓にも似ている「普通ではない(=奇恒)」器官という意味です。

そして第4回の五行論でも出てきましたが、例えば一見関係のなさそうな「肺」と「大腸」も「金」のグループに所属し、表裏の関係にあります。


これらの表裏の関係の臓腑は互いに密接な関係がありますから、例えば、「肺」の調子が悪くなると「大腸」の働きにも影響が出ることがあり、その逆もまた然りです。
そして、それら臓腑(からだの内側)と体表(からだの外側)つないでいるのが「経絡」と言って、前回お話した「気・血・津液」の通り道となっています。「肺経(肺の経絡)」「大腸経(大腸の経絡)」という風に、それぞれの臓腑と主に対応する経絡があり、実際の鍼灸治療ではこの「経絡」上の「経穴(ツボ)」を刺激することで、その経穴が所属する経絡に影響を及ぼし治療効果を出していくのです。


経穴(ツボ)は、臓腑の調子が悪いときには押すと痛かったり、膨らんだり凹んだりと反応が出る部分でもあり、また治療を施す場所にもなります。そして、それぞれの経絡は全て繋がっているので、例えば後躯や四肢の経穴を使って前半身や全身に影響を与えることも可能なのです。
「経穴を駅」(大小様々な駅がありますね)、「経絡を線路」(様々な路線がありますが駅で交わります)、そこを流れている「気・血・津液が電車」とイメージしていただくと良いと思います。

経絡や経穴などは、今インターネットでも簡単に検索できますから、ご興味のある方は見てみてくださいね。

少し急ぎ足になりましたが、次回はそれぞれの臓腑の働きをみていきますよ!
それでは皆さま、師走ですがお元気でお過ごしください!


青木志織 Shiori Aoki

ウィルどうぶつクリニック

大学在学時より中医学を志す
日本獣医中医薬学院卒業
1 級獣医中医師/獣医推拿整体師
現在、中医学気功も勉強中

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