各分野のトップランナーが、どのように学んできたのか。
そして、どのように学びを臨床に活かしているのか。

「明日の獣医療を創る」は、すべての臨床獣医師に捧げるインタビューシリーズ。
Extraは本阿彌宗紀先生です。

触診の限界、単純X線の限界

―「運動器を超音波で診る」とのテーマの書籍は、獣医療(小動物医療)では日本初と言えます。そして本書企画は本阿彌先生の発案と伺っておりますが、その切掛けはなんでしょうか?
 実はこの運動器超音波検査は、ヒト医療では30年以上前から存在し、最近になって急速に発展してきた分野です。現在では多くの整形外科医が診察室に超音波検査機器を置き、触診と超音波検査をセットにして診療を行っていると聞きます。

 私がこの「運動器超音波検査」という言葉を知ったのは、2006年のヒト医学の学会に参加した時なので、まだ大学院生だった頃です。触診や単純X線ではわからない、運動器の詳細な動きを観察できることを知り、非常に衝撃を受けました。そして、運動器超音波検査に関するヒト医療の様々なセミナーや学会に参加させていただくうちに、「この技術は獣医療にこそ必要である」と思うようになったのが発端です。


―なぜ、獣医療にこそ運動器超音波検査が必要と思われたのでしょうか?
 整形外科疾患とは骨の異常だけではなく、「運動器」つまり関節や 筋、腱、靭帯、神経の異常だからです。しかし、現在多くの獣医師が利用できる運動器の検査と言えば、触診と単純X線検査くらいでしょう。

 獣医療・ヒト医療に関係なく、触診は整形外科疾患の診断に非常に重要であることは言うまでもありません。多くの獣医師はある一定レベルの触診技術を身につけていますが、触診だけでほとんどの疾患を診断できるという獣医師はほんのわずかであり、言わば“匠の技”です。したがって、ほとんどの獣医師は触診と単純X線検査の所見を総合して診断していきます。

 ここで重要なのが、単純X線検査で得られるのは主に骨の情報のみであるということです。つまり、骨以外のほとんどの運動器の情報は触診、いわゆる“匠の技”に委ねられているのです。もちろん、CT・MRI検査を行えば多くの情報が得られますが、獣医療では全身麻酔が必要、予約性、費用が高額などの問題が付いて回ります。関節内の異常であれば関節鏡検査がGold standardですが、ここまでくるとほぼ手術です。

 その点、超音波検査はと言うと、無麻酔・無侵襲で検査が可能であり、ほとんど全ての運動器を画像として評価することができます。そして、最大のメリットは運動器がどのように動いているかを詳細に観察できることです。さらに、触診とセットにして検査することで、「感触」と「映像」を結びつけながら評価できるようになるのです。むしろなぜこれまで運動器超音波検査が獣医療で行われてこなかったのかが不思議ですね。