各分野のトップランナーが、どのように学んできたのか。
そして、どのように学びを臨床に活かしているのか。

「明日の獣医療を創る」は、すべての臨床獣医師に捧げるインタビューシリーズ。
第9回は川瀬 広大先生です。

※本インタビュー記事は、過去に取材した記事を再編集したものです。

奇跡を体験し、救急診療にのめりこんだ

― 救急診療に興味をもつ獣医師の先生が増えています。川瀬先生は、獣医心肺蘇生ガイドライン(Reassessment Campaignon Veterinary Resuscitation:RECOVER)の国内での普及活動に関し、中核メンバーとしてご活躍されていますが、まずはRECOVERの動向から教えてください。

川瀬先生: 現在はVECCS(Veterinary Emergency and Critical CareSociety)という救急医療の協会が、CPR(心肺蘇生法)のガイドラインを策定し、普及を図っています。この協会の中心となるのがDaniel J.Fletcher先生、Kenichiro Yagi先生であり、これらの先生と共に、私たち救急医が日本での普及へと動き出しているところです。

心肺停止で助からなかった動物の生存退院率が、このガイドラインのおかげで6~10%まで上がってきました。“心肺蘇生の壁”が、獣医療の進歩で乗り越えられるようになってきています。私もトレーニングを受けてRECOVER認定トレーナーとなりましたが、日本でも認定トレーナーがさらに増えれば、動物の救命へと寄与できると考えています。

またRECOVERがガイドラインの改訂を行っているのですが、文化的・宗教的な違いからか、アメリカでは安楽死を選択するケースが多く、また、獣医療において心肺蘇生に関するデータはごく限られているのが現状です。日本では、獣医師・飼い主ともに最後まで治療継続を望むケースが多いので、日本発の有益な情報が積極的にガイドラインへと反映される可能性があります。もちろん、当院からもデータ提供を行っています。

― 日本は救急の最先端を目指しているのですね。川瀬先生が救急診療に興味をもちはじめた経緯を教えてください。

川瀬先生: 大学時代、私は麻酔科の研究室に所属しており、柴﨑 哲先生(関西動物ハートセンター)が先天性心臓奇形の手術を行った際に麻酔の担当を任されました。そこで心臓麻酔に興味をもったことが、最終的に救急医療を目指すきっかけになったと思います。循環器疾患の中には心原性肺水腫のように急性発症することも多く、緊急対応を要求されることがあり、循環器疾患の勉強を進めていく中で、救急診療にも興味が湧いてきました。

大学を卒業後は、動物の循環器外科の先駆者である金本 勇先生の病院である茶屋ヶ坂動物病院にて勤務しました。麻酔科医にとって、安全な麻酔技術が確立されている一般的な手術は、それほど怖さを感じることはありません。しかし、心臓の手術は直接心臓に触るわけですから、不整脈も出るし、出血も多い。血圧や心電図の管理に関して、高い水準の技術と知識が求められます。難しいからこそ面白く、やりがいを感じました。循環器科には緊急症例が多く来院するわけですから、同等の難しさとやりがいを救急疾患にも見出していった・・・といったところです。

重症患者に遭遇したときは、今でも大量のアドレナリンが出ます(笑)。今まで助けることができなかった症例が奇跡的に助かる、心肺停止だった動物が自力で食餌ができるまで回復する──こうした奇跡を経験できるようになってからは、より救急診療へと注力していくようになりました。