なぜ神経学は難しいのか? その克服法は?

―獣医師の先生方はよく神経学は難しい分野だとおっしゃいます。長谷川先生が“その難解さをどう克服したのか”に興味がある先生は多いと思います。 
 「好きだから、それしか考えていない」が、その答えかもしれません(笑)。神経系は、体の仕組みの中でいちばんシステマティックな印象を受けます。末梢神経は脊髄につながり、そして脳へと刺激が伝達されます。脳の中には脳幹・小脳・前脳があり…と階層になっているため、異常がみられた際には、どこに問題があるのかを探るための方法が確立されています。こんなに数学的な美しさがあり、きちんと決まったルールのもとで動いているシステムはないと思います。そう考えると、非常に習得しやすい分野といえるはずです。

 それでも苦手意識をもつ先生が多いのは、神経学の本を開くと、いきなり解剖からはじまるからではないでしょうか。もちろん、解剖学の習得は非常に大切なことです。しかし、「ただ名前を覚える」ところから勉強がはじまるのは、ハードルが高すぎます。とくに、神経系の解剖用語は難しすぎるため、神経学の面白さがわかる前に挫折してしまうのだと思います。まずは症状を診るところからはじめて、「どうしてこの症状が起こっているのか?」を起点に考えれば、理解が進むと思います。


―長谷川先生は世界的な研究成果を発表されており、現在も継続的に論文を出されています。論文がアクセプトされる秘けつを教えてください。
 実は、私は数学・理科が苦手な文系の人間です(笑)。理系の先生と比較して、物語を考える能力と物事を伝える能力が高いことがアドバンテージになっています。

 研究論文では、実験結果をわかりやすく、そして興味深く他人に伝えられるかかが勝負となります。また、研究費を獲得するための研究計画書でも同様です。研究計画書を読む相手は、獣医学の専門家とは限りません。ある意味、妄想とも呼べる“未来の研究”を、獣医学に関係のない相手にうまく伝えて納得してもらう必要があります。

 理系の先生は、起承転結をつけながら1つの物語を伝えることが不得手な方が多いように思います。たとえば、論文が実験ノートのようになっているケースも散見されます。極論をいってしまうと、たいしたネタでなくても着想がユニークであれば、書きようによってはいくらでも面白く興味深い物語になります。人に伝える意識をもつこと、そしてきちんと伝えきることは、研究のみならず、臨床においても非常に大切な姿勢ではないでしょうか。


長谷川 大輔

経歴
2003年 日本獣医畜産大学獣医学部獣医放射線学教室 助手
2007年 日本獣医生命科学大学獣医学部獣医放射線学教室 助教
2008年 日本獣医生命科学大学獣医学部獣医放射線学教室 講師
2014年 日本獣医生命科学大学臨床獣医学部門治療学分野Ⅰ 准教授
2017年 アジア獣医内科専門医協会神経病専門医 DAiCVIM (Neurology)

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