各分野のトップランナーが、どのように学んできたのか。
そして、どのように学びを臨床に活かしているのか。

「明日の獣医療を創る」は、すべての臨床獣医師に捧げるインタビューシリーズ。
第2回は三輪 恭嗣先生です。

※本インタビュー記事は、過去に取材した記事を再編集したものです。

アメリカの強みと日本の強み

―三輪先生がエキゾチックの道へと進まれた経緯を教えてください。

三輪先生: 元々は犬・猫の外科を専攻しており、しかも、一度は海外でも勉強がしたいという希望をもっていました。林 慶先生(現・コーネル大学)を頼って渡米し、いくつかアメリカの大学や臨床現場を見学したのですが、ウィスコンシン大学のエキゾチック動物診療科で出会ったのが Kurt Sladky 先生でした。私は幼いころから生物が好きで、犬・猫以外にもさまざまな生物を飼っていたのですが、Sladky先生と会話をしていく中で馬があい、エキゾチック診療に対してあらためて興味をもちはじめました。

帰国後、東京大学の小川博之先生から「今の日本にエキゾチックの専門科はないが、いずれ必要になる。君が東大でやってみないか?」との申し出をいただいたのですが、そのときはまだ犬の方が好きだったため、即決できませんでした。ですが、エキゾチック診療の経験が豊富な斉藤久美子先生や小家山 仁先生からも「大学、とくに東大でエキゾチック診療をやることに意味がある。ぜひやってほしい」との応援をいただいたこともあり、「とりあえず2年間やってみます!」となり、現在へと続いていきます。「恩師や先輩方の応援や期待に応える」という信念が、今の私をつくったのかもしれません。

―三輪先生は海外の先生方とも頻繁に連絡を取りあっていらっしゃいますが、日本とアメリカの獣医療の違いはどこにあると感じていらっしゃいますか?

三輪先生: 日本のトップレベルにいる獣医師の知識や経験、技術は、獣医療の先進国といわれるアメリカにも決して引けを取らないと思います。でも、獣医療を学ぶ環境に差があるのではないかと感じています。

日本では犬も猫も飼ったことがないのに犬・猫の獣医師になる人がたくさんいます。それはアメリカも同様であり、エキゾチックについても「色々な動物を診ることができれば…」という“なんとなく”のモチベーションで、専門コースに進む獣医学生が大半です。
ただしアメリカには、犬・猫に限らずさまざまな動物についても専門知識を得られる環境と教育システムがあります。アメリカの大学の授業ではエキゾチックの解剖もやりますし、エキゾチックの疾病が国家試験の問題に出たりもします。

学ぶためのシステムがあれば、あとは臨床に必要なのは経験だけです。システムがある分、アメリカは専門性をもった人材の育成に長けていると感じています。


―三輪先生は海外の出版社からも執筆依頼が届きますが、エキゾチックの分野において、日本の強みはどういうところにあると思いますか?

三輪先生: 日本の病院の強みは、世界でもトップクラスの症例数をもっていることです。アメリカは国土が非常に広いですが、その反対に日本は狭い。しかも、エキゾチックの飼育者が東京に集まっているため、都内の動物病院はとくに症例を集めやすいと感じています。またアメリカの飼い主は、エキゾチックの診療にあまりお金をかけたがらず、コストがかかる診療より、安楽死を選ぶ傾向があります。日本の飼い主は、お金をかけてでも動物の命を長らえようとします。そのため、よりしっかりと症例に関する臨床情報の蓄積ができます。

エキゾチックの世界は狭いので、この分野の先生方はみな知りあいです。診療に困ると、ネットワークを通じてお互いに声をかけあいます。そんなとき、症例を多数もっている私は、海外の獣医師がもっていないエキゾチックの情報や画像を提供したりするのですが、それを海外の先生が憶えていてくれて、書籍出版の際に声をかけられるのだと思います。結局のところ、臨床で重要なのは“経験”です。エキゾチック診療のイメージにありがちな“広く浅く”ではなく、エキゾチックの皮膚だけを診る、眼だけを診るといった、“より深く”あることも、日本では可能です。そして、それを世界へと発信すれば、日本のレベルの高さを広められると考えています。

―お話を伺っていますと、日本の獣医療にも、まだまだ発展する余地がありそうですね。

三輪先生: それどころか、そもそも犬・猫に限定せずとも、さまざまな動物に目を向ければ、獣医師の可能性は無限に広がっていると思っております。
例えば、0℃以下で冬眠しているのに血液が凍らない動物がいます。しかし、これに着目して研究をしているのは工学部の方であったり、ヒト医療の先生であったり、動物学者だったりします。そして、彼らの研究成果を集約し、NASAが宇宙事業へと応用したりします。

私の中では、動物の研究では獣医師が“トップ”であってほしいのですが、現状は違います…。獣医師の目はヒト医療の薬理や生理に向いており、後追いしがちです。ヒト医療と獣医療では予算にも大きな違いがあり、結果、後追いしてもそこまでの成果を残せないのではないでしょうか。

逆に、獣医師がいろいろな動物の解剖と生理に精通し、かつ医療行為によって病気の要因や原因を調べられる立場なのだから、これを突き詰めればさまざまな研究へとつながり、新しい発見ができ、そして獣医師ならではの知見を発信できます。もちろん、他業種とのコラボレーションにもつながってきます。そして、これは獣医師の社会的地位の向上につながるものと思っています。