各分野のトップランナーが、どのように学んできたのか。
そして、どのように学びを臨床に活かしているのか。
「明日の獣医療を創る」は、すべての臨床獣医師に捧げるインタビューシリーズ。
第5回は金本英之先生です。
「人」に恵まれて、研究者の道を歩んだ
―金本先生はなぜ肝臓のスペシャリストを目指されたのでしょうか。
私は大学では病理学研究室に所属していたのですが、卒業研究のテーマが肝臓だったんです。臨床の研究をすると、みな新しい治療法を作りたいと思うものですが、病気の根本のところがわからないと治療にはつながらないので、それはなかなか難しいです。肝臓という臓器は特にわからないことだらけで、飼い主さんからよく「どうしてこんな病気になったのですか」と聞かれますが、明確な答えがある場合はほとんどありません。それが自分でも納得できなくて、新しい治療法の確立は難しくても、臨床に即した検査や診断に役立つ研究ならできると思い、東大の大学院に進むことにしました。
その東大で大野耕一先生から「せっかく大学で肝臓を研究してきたのなら、専門的にやってみたらどうだ」と言われたのも大きかったですね。大野先生は当時、超音波検査に使う新しい造影剤が出たことを知り、私に「本当に役に立つかどうか、調べてみなさい」と言ってくださったんですよ。臨床的な実験ということもあり、興味を持ってどんどん研究が進められ、きちんとしたデータを取ることができました。そのおかげでいろいろな学会に出させていただいたり、論文を書いたりすることができ、この分野をもう少し研究したいという思いが強まりました。そんな時、運良く肝臓の研究では世界でもトップレベルのオランダ・ユトレヒト大学の客員研究員となることができました。
私は、「人」に恵まれていたのだと思います。ユトレヒト大の先生や東大の大野先生はもちろん、私が大学院にいた頃の東大には中村篤史や福島建次郎、浅川翠といった、現在第一線で活躍している獣医師がたくさんいて、彼らに何度も助けられ、多大な刺激を受けました。
―お話を伺っていると、早い段階から目標を定めてキャリアを積んでこられたように思います
大学院1年の頃の私を知っている人は、「あのヤル気の無い金本がね…」と思っているかもしれませんね(笑)
大学ではいつも後ろの席にいて、授業を聞いているんだか聞いていないんだか、そんなヤル気のない態度でした。大学院に進んでも、大学院生の本分は研究をすることですが、何を研究したらよいのか全然分からなく、「何かを研究する」との意識すら持ってなかった時期もあります。
ヤル気が出なければドロップアウトした結末もあったとは思います。ただ研修医として必死に働いていた同輩をみて、励まされたのだと思います。“お互いに刺激し合って”といった格好良いものではなく、一方的に助けられたといった感覚です(笑)