獣医皮膚科の未来は?

―大隅先生からみて、日本の獣医皮膚科はどのようになっていくとお考えですか。
 皮膚科医の世界という観点でいうと、私達の恩師にあたる先生方の世代がアジア初の専門医制度をつくり、私達の世代がそれを活用しはじめています。ここにさらに若手の先生方も参画し、エネルギーを注いで活発に活動しはじめているので、世界に向けての情報発信が、今後はますます活性化していくと思われます。現在はまだ世界を引っ張っていく存在ではありませんが、あと10年もすれば、私達の世代の日本の皮膚科医が、ガンガン世界で活躍できるようになると思います。

 次に一次診療と皮膚科の関係を考えた場合、動物病院経営における皮膚科の重要性についてお話したいと思います。アニコムの統計によると、動物病院にくる初診患者の24%は皮膚の病気です。それに耳疾患(17.4%)もあわせると41.4%。つまり、来院理由の多くが皮膚科疾患であり、延べ数にすれば、患者の約6割は皮膚病で来院すると考えられます。

 私はセミナーでもよくお伝えしますが、このような多くの機会(疾患)に、適切かつ丁寧に対応できる病院の信頼は徐々に厚くなっていきます。そうすることで、安易な転院を少なくすることにつながり、その他の病気でも続けて来院してもらえるようになり、結果的に病院自体の経営が安定していくと考えています。
これは院長でなくとも、丁寧に診ることができるスタッフ、ケアができるスタッフを育てることでも達成でき、皮膚科の需要は今後も増えていくと考えています。


―現状の教育および皮膚科診療では、アジアと日本に違いを感じますが。
 例えば、タイの教育は日本をすぐに追い越すと思いますし、へたすると、もう越しているかもしれません。学生が本気になるような教育がしっかり行われている印象ですし彼らは英語で授業を受けていますから、すぐに世界の場へと出ていくことができます。
 言葉の壁や独特の内気さという障害があるため、日本は専門医制度の確立だけに胡座をかいていることはできないと思います。“他のアジアの教育レベルは下”ということはありません。日本は少しなぁなぁにやっているきらいがあり、一方、アジアの国々は本気度が違うように思います。
 私がアジアでレクチャーを行う際にも、どんどん専門性を出していかないと“つまらない”と思われる、そういうレベルになってきています。むしろ、日本の獣医学に危機感を覚えています。