臨床ができて研究もリードできないと、教育はできない

―なるほど。そして研究者の立場で腎臓研究を研鑽していった、と。
 いえ、私が一番面白いと思っているのは、研究や臨床よりも学生を教育することです。臨床ができて、研究もリードできる先生でないと、学生には「面白い」と思ってもらえませんし、ついてきてもくれません。尊敬されない人間に教育はできないと思います。尊敬できる先生の元にいるからこそ、学生は一生懸命勉強しようという気になるのだと思います。
 私は、せっかく専門的な大学に入ってきたのだから、学生には何かひとつでも「あ、これ面白い」と思えるものに出会ってほしいと考えています。でも、先生が面白くないと面白いものには出会えない。私も竹村先生からは、獣医師としての信念や診療スタイルなどをたくさん学ばせてもらいました。


―たとえば、どのような信念を学ばれましたか?
 


 今でもよく覚えているのは、竹村先生のこの言葉です。「飼い主に寄り添った診療をしろとよく言われているが、じゃあ誰が動物に寄り添った診療をしてくれるんですか?」。
 飼い主の気持ちに寄り添うことは確かに大切ですが、飼い主が考えていることが常に正しいとは限らない。だから、飼い主ではなく動物に寄り添った診療をしなければいけないと先生から教わりました。そのときから私は、獣医師の仕事は、動物そして飼い主をもっとも幸せにする方法を考えていくことだと思っています。
 だから研究の場であっても、動物にも飼い主にもメリットのないことはやる意味がないと考えています。動物の命がかかっているからこそ胸を張っていられる研究をやるべきと思います。私は学生にもよく言います。「そういう勉強の仕方で、研究発表のやり方で、きみは動物に恥ずかしくないですか?」と。


―研究者の立場として質問します。宮川先生は腎臓の研究をどのように究めたいと思っていますか
 一番やりたいことは、猫の腎臓病がなぜ発生するかをはっきりさせたいことです。
 ヒト医療でもそうですが、色々な発生している病気をひとまとめにして慢性腎臓病と呼んでいますよね。猫でも犬でも、複合的に腎臓の中で発生している原因ひとつひとつを認識していることは、ほとんど無い。原因は何なのか? 腎臓が悪くなって、腎臓の機能が落ちて、老廃物が溜まった状況を腎臓病と捉えている。
 腎臓病が起こる理由は色々あるのに、腎臓病だから薬はコレ、フードはコレ、と短絡的単一的に治療が行われていることに違和感をもっています。
 その理由のひとつひとつに私たち研究者が注目することで、発症する理由の予防にも繋がっていきます。例えば飼い主に生活環境の改善を促すとか。正統的な獣医師の腎臓研究とはまた違うところに行こうとしているかもしれませんが(笑)。