各分野のトップランナーが、どのように学んできたのか。
そして、どのように学びを臨床に活かしているのか。
「明日の獣医療を創る」は、すべての臨床獣医師に捧げるインタビューシリーズ。
第2回は宮川 優一先生です。
※本インタビュー記事は、2017年に取材した記事を再編集したものです。
心臓病治療の前にきちんと腎臓の状態を評価したい
―獣医師を志された理由を教えてください。
子どもの頃に飼っていた猫が、尿道閉塞から急性腎不全になって死んだことがきっかけです。
そのとき、最初に行った動物病院では原因がわからず、「もうダメだ」と突き放されました。二番目の病院では原因はわかったけれど、猫の容態が悪くなると病院から連絡が来て「お宅の猫がもう死にそうだけど会いにはこないでくれ」と言われたんです。
実際、猫はそのまま死んだのですが、両親は愛猫の死に目に会えなかったことをずっと後悔していました。私も正直「獣医なんてこんなものか」と思いましたね。ろくなもんじゃないな、と。だから高校くらいまでは獣医師になるつもりはさらさらなく、海洋生物学に興味があったんです。ですが、やはり就職を考えたらそちらの道は難しく、とはいえ動物に関わる仕事には就きたかったので、資格が取れる獣医師を選ぶことになりました。
―日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)獣医学部に入学され、その後腎臓の研究に打ち込まれたのはなぜですか?
もともと臨床がやりたかったのと、先輩から「臨床の基礎は内科だぞ」と聞いたからです。そして4年生になったときに竹村直行先生のゼミに入り、そこで“ガイトン生理学”をテキストとして循環器を勉強するうちに“腎臓は面白い”と思うようになったんです。
やがて竹村先生が、腎臓病の第一人者であった宮本賢治先生(熊本・エンゼル動物病院院長)から腎臓の機能検査の方法を伺い「うちの大学でも実施したい」と言い出し始めたんです―というのも、心臓病の動物は腎臓の合併症をもっており治療しにくいケースが多いので、治療の前にきちんと腎臓の状態を評価したいと考えたのだと思います。
当時大学4年生だった私ともうひとりの学生に、A4の紙一枚分しかない簡単なプロトコルを渡して「これができるように詳細な手順を研究しておいて」と言うんですよ。かなりむちゃな要求でしたが(笑)しかし、竹村先生が半年かかると踏んでいた手順を私たちは1カ月で完成させることができました。
このプロトコルは大学病院でも活用できるようになったのですが、詳細を理解しているのは私たちだけ。竹村先生からは授業中でも呼び出しがかかり「(研修医に指示を出して)検査をやって」と。こんな学生生活を通して、腎臓の研究に傾倒していくことになりました。また、当時は腎臓の専門医が年長の先生ばかりで、同世代とかやや上の世代にあまりいなかった―色々な腎臓の研究を次の世代に引き継いでいきたいとも考えたのかもしれませんね。