輸血のリスク、そして今後に期待することは

次に輸血を実施するに当たって問題となる、犬や猫の血液型についても情報を提供したいと思います。犬の血液型はヒトのABO式と異なり、DEA(Dog Erythrocyte Antigen: 犬赤血球抗原)式というものです。

現在、10種以上の血液型が発見されているようですが、国際的に認知されているのは8種と言われています。
具体的にはDEA1.1、DEA1.2、DEA3、DEA4、DEA5、DEA6、DEA7、DEA8の8種です。それぞれの抗原があるかないかで表現されることから、ヒトに比べて非常に複雑です。
輸血の場合、DEA1.1が非常に重要で、検査キットで陽性か、陰性を調べます。DEA1.1が陰性の場合は、血液を輸血用に提供することができますが、DEA1.1の犬から輸血を受けることができません。

さらに安全性を高めるために交差試験(クロスマッチテスト)といって、輸血する犬の血液と輸血される犬の血液を混ぜて、固まるかどうかを確認します。固まれば体内で固まることになり、輸血はできないことになります。
一方、猫の血液型は、A、B、ABの3つに分類されます。犬と同様に判定用キットが市販されているようです。異なった血液型の輸血を行うと溶血といって赤血球が破壊され重篤な副作用が発生します。

A型の猫にB型の血液は輸血することはできません。しかし、逆にA型の猫が持つ抗B型抗体は弱いので、B型の猫にA型の血液を輸血することは可能なようですが、いろいろな副作用を考えれば血液型を一致させることが良いと思われます。

さらに血液型が一致しても血液を提供する犬や猫が健康でなければなりません。血液にはさまざまな病原体が混入する危険性があるのです。医療で輸血を介して後天性免疫不全症候群(エイズ)に罹ったことを記憶していることと思います。
基本的には健康でワクチンプログラムに準じてワクチンを投与し、大人しくて大型の動物であることが望まれます。また輸血されていないことも危険性を回避する意味で必要な条件であると思います。血液には未知の病原体が混入する危険性が常に伴うのです。なお、伴侶動物の輸血に関しての情報は日本獣医輸血学会のWEBサイト(https://www.jsvtm.org/views)を参考にして下さい。


以上のように獣医療が高度になるのに伴い、必要な輸血用血液や血漿製剤の供給体制が不十分である実態をご紹介しました。

近年、伴侶動物医療が目覚ましい発展を遂げているタイを見てみますと、獣医系大学の附属動物病院には血液バンクがどこでも設置されており、多くの献血が行われています。
タイは熱心な仏教国であり、国民すべてに施しの精神が浸透されています。富む者は貧しき者に、健康な者は病気の者にというように、健康な動物の血液は病気の動物に提供されているようです。
献血はボランティア精神がなければ成立しない制度ですので、健康な犬や猫の飼い主さんには是非とも多くの登録をお願いしたいものです。

また、以前に輸血製剤や血漿製剤が販売されていたように、製薬企業の皆さんに是非とも、製造に当たって様々なハードルがあるものの、社会的な要請の高いこの分野への積極的な参入を期待したいと思います。


田村 豊 Yutaka Tamura

酪農学園大学名誉教授

1974年 酪農学園大学酪農学部獣医学科卒業
1974年 農林水産省動物医薬品検査所入所
1999年 動物分野の薬剤耐性モニタリング体制(JVARM)の設立
2000年 検査第二部長
2004年 酪農学園大学獣医学部獣医公衆衛生学教室教授
2020年 定年退職(名誉教授)

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