伴侶動物に対する獣医療の進歩は目覚ましいものがあります。

従来ならできなかった高度な外科的な治療も、大学以外の多くの伴侶動物病院で実施されるようになりました。また、CTやMRIなどの高額な診断用の医療機器を備えた施設も増えています。

しかし、いくら細心の注意を払っても避けて通れないのは外科手術での出血になります。そこで必要な処置となるのが輸血です。今回は日本における伴侶動物に対する輸血の供給体制と血液型についてお知らせしたいと思います。

他の動物病院への血液の提供は、お金の授受が伴わなくても販売業とみなされる

主に外科手術時に必要とされている輸血用血液製剤や血漿製剤は、残念ながらわが国では「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)で承認されておらず、販売されていない状況です。

以前は犬の輸血用血液を販売している会社があったのですが、残念ながらすでに廃業しています。また、止血効果が期待できる血漿製剤も販売されていない状態なのです。したがって、臨床獣医師は常に失血死と隣り合わせで手術を実施していることになります。そこでどうしても輸血を実施したい動物病院では薬機法に抵触しないような図に示す輸血スキームを構築しています。


まず供血犬を病院で飼育し、輸血が必要な場合は採血して輸血しています。
次に動物病院で篤志家の飼い主にお願いしてボランティアの飼い犬や猫を登録し、必要な時に献血をお願いして輸血しているのです。
ただそれほど多くの登録がないのが実情のようで、常に血液が不足している状況です。

それでは、ある動物病院の供血犬や登録犬の血液を、輸血を必要としている動物病院に提供することは可能なのでしょうか?
残念ながら、未承認薬である血液を反復継続して提供していれば薬機法違反になります。つまり医薬品販売業の許可がないのに医薬品を他の動物病院に提供することは、お金の授受が伴わなくても販売業とみなされるのです。
したがって、自分の病院で血液を準備する必要があり、さらなる高度な獣医療を提供するための非常に大きな障壁となっているのです。