薬剤耐性菌と獣医療のかかわり

世界的な医療における薬剤耐性菌の蔓延を背景として、2015年にWHOは薬剤耐性グローバルアクションプランを採択し、戦略的目標を達成するための基本的な考えをワンヘルスアプローチとしました。薬剤耐性菌はヒトと動物と環境の中で循環していることから、医療における薬剤耐性菌問題に対して動物側の我われも協力していくことが求められました。これに引き続き、2016年にわが国での薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(国内行動計画)が制定され、2020年までに達成すべき必要項目が設定されました。これまでAMR対策のために国内行動計画に基づいて様々な活動が行われました。中でも犬や猫の伴侶動物分野に関連する成果としては、これまでブラックボックスであった伴侶動物に関する薬剤耐性モニタリングが制度化されたことです。

具体的には2017年度から全国的な薬剤耐性菌の動向調査と、伴侶動物医療で汎用されているヒト用抗菌薬の使用実態調査が開始されたことです。これらの調査体制は世界的にもほとんど実施されておらず、世界に先駆けた対応となりました。また、薬剤耐性菌や抗菌薬の適正な使用を促すために専門家や国民に向けて様々なレベルでの普及・啓発セミナーを開催しましたし、リーフレットや動画などの普及・啓発ツールを作成しました¹⁾。獣医師向けにも日本獣医師会獣医学術学会年次大会の度重なるシンポジウムや学術団体によるセミナーなど様々な活動を展開してきました。

このように国を挙げて2016年から相当の予算と人出をかけてAMR対策を推進してきました。ではこれらの活動は本当に獣医師や畜産農家などの抗菌薬を実際に使用する人たちに届いているのでしょうか? 以下に様々なアンケート調査から普及・啓発の効果について検証したいと思います。