■はじめに/読者の皆様へ
皆さん、初めまして。酪農学園大学の田村 豊と申します。
今年の10月まで獣医学群食品衛生学ユニットに所属し、獣医学生に対して獣医公衆衛生学の教育と、
動物と環境由来薬剤耐性菌の分子疫学に関する研究に従事していました。
今回、縁あってEDUWARD MEDIAにおいて獣医学関連の最新の話題について
「今週のヘッドライン 獣医学の今を読み解く」と題して
シリーズでコラムを書かせていただくことになりました。
大学の講義の最初に「今週のヘッドライン」として話していた、獣医学関連の話題を継承するものです。

毎週のように獣医学関連のニュースが引きも切らずに国内外から公表されています。
今回は読者が小動物医療関連の獣医師や動物看護師が中心ということで、
小動物医療関連の話題を中心に解説していきたいと思います。

また、獣医学全般の話題でも皆さんに知っておいて欲しいものも取り上げます。
世界で刻々と動いている獣医学の今を肌で感じていただければ幸いです。
是非とも興味を持っていただき、継続してお読みいただけることを期待しています。

酪農学園大学名誉教授 田村 豊

はじめに

Clostridioides difficile (CD)は偏性嫌気性のグラム陽性桿菌です。最近、分類学的研究の結果、 Clostridium difficile から属名が変更になったものです。CDはヒトの抗菌薬投与後に発症する抗菌薬関連下痢症や偽膜性大腸炎の原因菌の一つとされています。これら Clostridioides difficile 感染症(CDI)は院内感染症の中でも頻度の高い疾患で医療上の重要性が増しています。CDC(米国疾病予防管理センター)は、1年間でCDIに25万人が罹患し、14,000人が死亡するとして、最も警戒が必要な細菌感染症(Urgent threat)に指定しています。CDIは病院や老人介護施設等において下痢症を引き起こす主要な医療関連感染症であることに加えて、最近では市中でも感染を引き起こすことが示唆されています。市中感染の原因としては、動物や食品の関与が考えられるものの研究が十分になされていないのが現状です。

CDの産生する毒素としては、エンテロトキシン活性を示すトキシンA(TcdA)と細胞毒性活性を示すトキシンB(TcdB)、さらにアクチン特異的ADPリボシル化酵素であるバイナリートキシン(CDTA、CDTB)が知られており、CDの病原性との関連が指摘されています。また、分離株の疫学的な関連性を調べるための遺伝子型として、リボゾームRNAをコードする遺伝子を含む断片を検出してパターンを調べるリボタイプが汎用されています。海外では、ヒトと動物で共通のリボタイプを示す市中感染が増加していることが報告されています。しかし、日本におけるCDのヒトと動物の関連性を明らかにする研究は行われてきませんでした。そこで、酪農学園大学獣医学群食品衛生学ユニットの臼井優准教授を中心に精力的な疫学調査を行ってきましたので、今回はその概要を紹介したいと思います。