■はじめに/読者の皆様へ
皆さん、初めまして。酪農学園大学の田村 豊と申します。
今年の3月まで獣医学群食品衛生学ユニットに所属し、獣医学生に対して獣医公衆衛生学の教育と、
動物と環境由来薬剤耐性菌の分子疫学に関する研究に従事していました。
今回、縁あってEDUWARD MEDIAにおいて獣医学関連の最新の話題について
「今週のヘッドライン 獣医学の今を読み解く」と題して
シリーズでコラムを書かせていただくことになりました。
大学の講義の最初に「今週のヘッドライン」として話していた、獣医学関連の話題を継承するものです。

毎週のように獣医学関連のニュースが引きも切らずに国内外から公表されています。
今回は読者が小動物医療関連の獣医師や動物看護師が中心ということで、
小動物医療関連の話題を中心に解説していきたいと思います。

また、獣医学全般の話題でも皆さんに知っておいて欲しいものも取り上げます。
世界で刻々と動いている獣医学の今を肌で感じていただければ幸いです。
是非とも興味を持っていただき、継続してお読みいただけることを期待しています。

酪農学園大学名誉教授 田村 豊

はじめに

私たちの誰しもが健康で事故のない平穏な毎日を過ごすことを願っています。しかし、ときに思いも寄らず緊急手術を余儀なくされることがあります。このように外科手術が必要な疾病に罹ったり、事故などにより緊急手術を受けることになった場合、多くの患者は手術日を選ぶことはできません。手術は病院の状況によって、手術日や執刀医が決められるものと思います。患者は常に執刀者である医師に最高のパフォーマンスで手術を受けたいと思いますし、受けていると信じています。

ところが実際には手術室での医療機器のトラブルや手術とは無関係の会話など、執刀医の注意を逸らすような状況が多く存在すると考えられます。しかし、これまで手術中に注意散漫となる状況が、患者の死亡率に与える影響について全く調べられていませんでした。今般、アメリカでの大規模な医療データを用いて、誕生日に執刀医が注意散漫になることや、手術を早く終えようとすることが原因で、執刀医のパフォーマンスが変わるのではないかとの仮説をもとに、執刀医の誕生日と患者の死亡率の関係を調べた論文が公表されました。

掲載された医学雑誌は、世界で最も権威ある医学雑誌であることを考えると、科学的な正当性と研究内容の重要性を推し測ることができます。研究はアメリカでの医療での話であるものの、獣医療としても関連して非常に興味ある内容であることから、ここに研究内容を紹介したいと思います。