各分野のトップランナーが、どのように学んできたのか。
そして、どのように学びを臨床に活かしているのか。

「明日の獣医療を創る」は、すべての臨床獣医師に捧げるインタビューシリーズ。
Extra2は服部幸先生です。

猫はわからないことだらけ

―服部先生が猫診療を志した理由を教えてください
 猫科の動物の研究者になりたかったことが始まりです。野生の猫科、ライオンの研究者とか…大学に進学して、小動物臨床に進む際にも“猫だけを診ることができないかな”とは考えていました。でもまあ、周りは私にアドバイスしますよね、「猫だけで経営的にやっていけるのかと」(笑)。それでも楽観的に“なんとかなるだろう”とは思っていました。
根本として、私は犬を飼ったことがないため、犬のことがよくわからない、ということがあると思います。


―猫の診療に特化するうえで、知識的・技術的な不安はありませんでしたか?
 当院を開業する前に、アメリカのテキサス州にある猫専門病院 Alamo Feline Health Centerの研修プログラムに参加しました。
そこでは、The Feline Patientの著者であるGary D. Norsworthy先生のもとで研修を行ったのですが、そこでの経験が自信につながったと考えています。

 Gary先生は私より常に“2歩先”にいました。私の知らない技術や知識を、たくさんお持ちで、私が「猫の診察とはこうだろう」と思う延長線上にGary先生がいらっしゃいました。つまり、このまま自分がやっていることを積み重ねていけば、研鑽していけばいいんだと思い、それが励みになりました。そのおかげもあり、当院を開業するときには不安はほとんどありませんでした。


―Gary先生のもとで研修をしようと考えたキッカケはなんですか?
 13年前、日本にThe 5 Minute Veterinary Consult : Canine and Felineの著者であるLarry P. Tilley先生がご講演でいらっしゃった際に、アメリカで猫を専門に診ている先生を紹介してほしいという話をさせていただいたところ、Gary先生を紹介していただきました。Larry先生にGary先生の連絡先を教えていただき、私からGary先生に直接研修をさせていただきたいとご連絡をさせていただいたことがキッカケです。Gary先生は私のことを何も知らないのに、ご快諾していただき、研修をさせてくれました。なので、今度は外国の先生から「当院に研修に来たい」という申し出があった際には、できる限り対応したいと考えています。


―猫の診療をするうえで、大変なことはなんですか?
 


猫の診察はわからないことだらけです。毎日が試行錯誤の連続です。
 猫専門病院という立ち位置もあって、他の動物病院を転々としても治らないような難しい症例が多く来院してきますし、この病気かな?と調べても教科書に載っていなかったり、数例しか論文報告がないような病気に多く接しているのが現状です。

 また、犬の診療に比べて圧倒的に情報が不足していると感じる一方で、あくまでも個人的な考えですが、猫の飼い主は、飼い猫を家族以上の存在、たとえば“宝物”として捉えているのかな、と感じる場面が多々あります。これはどういうことかというと、宝物であるからこそ、飼い猫を傷つけたくない・(診察による)ストレスを感じさせたくない、といった傾向の考え方をするのかな、ということです。猫の飼い主のそのような飼い猫に対する距離感を理解して、診察していくことがポイントだと思っています。