2022 年 11 月 19 日~20日、大阪市内で「第 43 回動物臨床医学会年次大会(動臨研)」が開催され、日本全国から 1561 名の参加者が集まりました。3 年ぶりのリアル開催とあって、会場内は熱気にあふれ、質疑応答も活発。対面発表ならではの盛り上がりが、水準の高い臨床報告が集結する動臨研の魅力を浮き彫りにしました。

本連載では、90 本弱もの発表があった今回の動臨研の講演のうち、EDUWARD Pressの編集者(獣医師含む)が特に注目した発表をピックアップ。その見どころをご紹介します!

腸内細菌叢と消化器疾患の関係 1.抗菌薬とプロバイオティクス

発表者:五十嵐寛高先生(麻布大学獣医学部獣医学科小動物内科学研究室)


【概要】
薬剤耐性菌の増加に伴って、近年、抗菌薬の慎重使用が今まで以上に重要視されるようになってきています。

獣医学領域においても、5 年ほど前から抗菌薬誘発性の下痢症の論文報告が増え始めていることなどから、講演ではまず、従来行われてきた「下痢=とりあえず抗菌薬」の経験的治療の図式に疑問を投げかけました。

犬の下痢症の治療効果(寛解までの日数)に関しては、複数の論文報告において、抗菌薬(メトロニダゾールなど)投与群とプラセボ群、プロバイオティクス投与群の間に明らかな有意差がみられず、食事療法のみでも長期的な寛解が見込めることや薬剤耐性菌発生への懸念が示されていることなどを紹介しました。

これらの結果から、五十嵐先生は「抗菌薬をあえて使用すべき症例はかなり限られる。多くの下痢症は、基礎疾患の治療、高繊維食などの食事療法、支持療法により良好に治療されるのではないか」と結論付けました。

また、人間の場合と同じく、犬と猫においても抗菌薬の使用により、腸内でディスバイオーシス(細菌叢のバランスの異常)が生じ、腸の免疫機構をうまく調節する機能が失われることが複数の論文報告で推察されています。

一方で、プレバイオティクスとプロバイオティクスには腸内の細菌叢のバランスを整え、長期的な治療コントロールを容易にする効果が期待されていることなどを紹介しました。